ドン・ファンの死後、警察はこの主人にも事情を聴いている。
「葬儀があったころ(5月30日)警察に呼ばれました。そしてトランクの写真を見せられて『これでしたか?』と確認させられたんです。大きさが少し違っているような気もしましたが、ガムテープでぐるぐる巻きにしてあったので、多分間違いないと答えました」
はたしてトランクと中身の2億円はどこに消えたのか? 社長の信頼が厚く、運び屋を任されていたアプリコの元従業員から話を聴くことができた。
「僕も何度も運んでいました。金庫部屋と自宅を往復したり、ある人の家に運んだりもしました。他の従業員にそのことを喋るのは社長から固く禁じられていましたが、僕が運んでいるのは薄々気づかれていたと思います。大きなトランクはすごく重くて40キロくらいありました。もう一つ、別の小さいバッグを一緒に運んだこともあります」
――なぜ中身が2億円の現金だとわかるんですか。
「社長は現金主義です。金の延べ棒なら、腐らないから庭にでも埋めておけばいいですからねえ。トランクの重さも入れて考えると2億くらいだと思ったんです。小さいバッグのほうはガチャガチャと金属音がしましたから、そちらが金の延べ棒だったのかもしれません」
1万円札1枚の重さは約1グラム。10キロで1億円、20キロで2億円になる。トランク自体の重さも含めると、計算は合う。
2億円はどこにいってしまったのか
――最後に運んだのはいつ?
「3年ほど前に会社の金庫に入れたのが最後です。2億円の行方は社長が死ぬ前か死んだ後に最後に荷物を運んだ者が知っているんじゃないですか」
――その件で、警察から事情聴取された?
「いえ、何も聴かれていません。僕が社長からの信頼が厚かったのは間違いなかったですけど、警察は辞めた従業員まで把握してないのとちゃいますか」
はたして最後に現金を動かしたのは誰なのだろうか。マコやんが言う。
「従業員の一部が、ボク(マコやん)が最後に運んだとマスコミに吹聴しているようですが、それは事実ではありません。警察が捜査をしていることですから、そのうち真相が解明されるのではないでしょうか」
さっちゃんが世間から疑惑の目を向けられるのは、莫大な遺産を相続するからだ。そのカゲに隠れてあまり話題にもなっていないが、この「消えた2億円」も、殺害の動機になりうると私は考えている。ドン・ファンが死ねば、このカネの詳細を知るものは世の中に一人もいない。犯人が、それを我が物にしようと考えたとしたら――殺す理由としては十分かもしれない。もっと少ない金額が原因で起きている殺人事件は、いくらでもある。