『シン・ゴジラ』で演じたキャラが人気に
出演作は主役よりも脇役を演じた作品が多いのだろうが、それでも記憶に残る役がいくつもある。大ヒットした映画『シン・ゴジラ』(2016年)では、ゴジラに立ち向かう専門家チームの一員、環境省の官僚の尾頭ヒロミを演じた。
ヒロミの無表情でクール、それでいて心の奥に情熱を秘めたキャラクターは人気を集める。そのため、しばらくは色々なところで「尾頭さん」と呼ばれたようだ。だが、《“市川実日子”と言われるよりも、何かの作品の役名で言われるほうが、どちらかというと嬉しいかもしれません》という彼女には(『anan』2020年11月4日号)、それはむしろ歓迎すべきことであった。
『シン・ゴジラ』で人気に火が付いて以来、次々と話題作に出演した。それにともない役の幅もグッと広がったように感じられる。映画『よこがお』(2019年)では、筒井真理子演じる主人公の看護師を慕いながらも、その思いが過剰になるあまり、彼女を追いつめてしまう女性を演じ、鬼気迫るものがあった。
そんな市川を監督の深田晃司は、《彼女自身はびっくりするほど陽気で朗らかな方なんですが、でも俳優としては、明るいだけじゃない、その裏にじとっとした暗さのような、何かものすごいものを抱えているんじゃないかと見る者に想像させるだけの奥行きもある》と評した(『キネマ旬報』2019年8月上旬号)。
朝ドラでは、深津絵里の恋敵を好演
NHKの朝ドラ『カムカムエヴリバディ』(2021~22年)で演じた“ベリー”こと野田一子は、タイムスパンの長い役で、当初は深津絵里演じるヒロインの恋敵として登場しながら、のちには大の親友となり、一緒に年齢を重ねながら、互いに結婚して儲けた娘ともども交流を続ける。
さらに今年放送のドラマ『探偵ロマンス』では、最終回のラストになって、謎めいた男装の麗人役で登場し、物語がさらに続くことをほのめかす役割を担った。こうしたミステリアスな役はいかにも市川にふさわしい。
現実の彼女も素顔がよくわからず、ミステリアスなイメージがある。先述したように、作品の役名で呼ばれるほうがうれしいと感じるのも、《作品を見るときに、俳優の素顔などの情報はないほうがワクワクして見られるのでは、と、個人的には思う》からだという(『anan』前掲号)。