昨年、Paraviのオリジナルドラマとして配信された主演ドラマ『それ忘れてくださいって言いましたけど。』では、東京の下北沢のカフェでバイトする俳優・ミカコを演じた。現実の名前と同じ役名であることに加え、その演技があまりに自然なので、本当に彼女はシモキタで店をやっているんじゃないかと錯覚すら覚えた。
「丁寧な暮らし」のイメージ
思えば、同作といい、今年放送されたドラマ『À Table!~歴史のレシピを作ってたべる~』といい、『すいか』以来、劇中で料理をつくる役が目立つ。それは、当の市川に丁寧に暮らすイメージがあるからなのかもしれない。
実際、子供のころ着ていた服がほとんど母親の手づくりだったこともあり、市川自身も裁縫や編み物に親しんできた。10代のころには、急に飲み物に興味を持ったのがきっかけで、お茶に凝るようになった。当時、友達から中国茶の一種「岩茶(がんちゃ)」について教えられて以来、それを一日一回、淹れて飲むのが日課だという。何とも渋い趣味だが、《若いときから「早くおばあちゃんになりたい」と思っていたんです》と最近のインタビュー(「telling,」2023年4月14日配信)で明かしているのを読むと、さもありなんと思わせる。
年齢を重ねることを「無理やりポジティブに捉えたくはない」
ただ、同じインタビューでは、《いざ自分が30代、40代と年齢を重ねていくと、憧れだけではない、何とも言えない気持ちを感じることはあります。それを無理やりポジティブに捉えたくはない》とも語り、次のように続けていた。
《身体と心の変化が起きているんだから、それまでとは違う何かに違和感を覚えるのは自然なこと。私は、すぐに「こういうものなんだな」と、変化を受け入れようとする傾向があるんです。でも、変化のたびにいろんな出会いがあって、実は身体にも心にも知性があり、いつからでも進化していけることを知る機会になっています。失ったものがあったら、その分、得たものがある。「ない!」を見つめるより「あった!」を見てみると、「ある!」という楽しい出来事が目の前に現れてくるんだな、と最近感じています》
かつて、専属モデルも映画出演も当初は断りながら、実際に現場を経験するや楽しいと感じ、新たな扉を開いた経験が、人生観にも反映されているのだろう。知性を広げた分だけ、役の幅も広がり、その一つ一つの奥行きも深まる……そう考えると、俳優・市川実日子の魅力の秘密がちょっとわかったような気がする。