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足が速すぎるゆえに…ヤクルト・並木秀尊が真のヒーローになるために必要なこと

文春野球コラム ペナントレース2023

2023/07/01
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「悪夢の逆転負け」を乗り越えて

 さて、閑話休題。5月24日、神宮球場、対阪神タイガース戦。

 1点リードで迎えた9回表2アウト。ノイジーの放った打球を見て、誰もがゲームセットと思った次の瞬間。照明と重なってボールを見失った並木が、まさかの後逸。

 悪夢の逆転負けとなり、結果として連敗を止められなかったあの試合。

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「何とかしてやろうという気持ち、顔に当ててでもという気持ちはなかった」と試合後、髙津臣吾監督は苦言を呈しましたが、翌25日のスタメンに並木を1番で起用しました。

 しかし、結果は3タコ。その翌日から、彼がスターティングメンバーに名を連ねる事はありませんでした。

 1か月後の6月23日、バンテリンドームでの中日戦。あの3タコ以来、ようやく巡ってきたスタメンのチャンス。

 1打席目は、小笠原慎之介の前に見逃し三振。そして、2打席目。

 初球、セーフティーバントの構えを見せるもストライク。2球目、小笠原のナックルカーブに全くタイミングが合わず空振り。

 やっぱりダメか……と僕だけでなく、あの試合を見ていた結構な数のスワローズファンは同じことを思ったんじゃないかと思います。

 しかし、1-2で迎えた4球目。ストレートを捉えた打球は左中間の真ん中を破りました。ナイス二塁打!

 と思ったのも束の間、彼は驚くべき速さで三塁に到達していました。

 村上宗隆のタイムリーで先制のホームを踏むと、続く3打席目には意表を突く一塁側へのセーフティーバント。あのバントでセーフになるのは、プロ野球界でも間違いなく並木ただ一人だと思います。

50メートル走5秒32。「サニブラウンに勝った男に勝った男」

 独協大時代には、大学日本代表の合宿で1歩目を踏み出してから計測を開始する変則的な50メートル走で5秒32をマークした並木秀尊。

 中学時代に陸上大会で「サニブラウンに勝った男」として知られる日本ハムの五十幡亮汰のタイムが5秒42。並木秀尊は「サニブラウンに勝った男に勝った男」なんです。

 見ていて思うのは、足の回転の異常なまでの速さ。そう、彼は足が速いだけでなく、回転が早いんです。

 特に、「行く!」と決めた時のあの回転の速さ。

 何度もリプレイしたくなるあのスピード感は、誰にも真似することはできない。

 陸上選手にも負けないこの脚力こそ、真のヒーローになれる足の速さなんです。

スタメンに名を刻み続けろ

 この試合を猛打賞とすると、そこから今日までスタメンに名を連ね6月30日現在、4試合連続安打中。

 このままレギュラーを掴み取るためにも、とにかく“ちょんぼ”はなくしてほしい。

 外野の後逸は即失点に繋がります。実際、足が速いがゆえに打球に追いついてしまうから、捕球できなかった時にミスに見えることもあるでしょう。だからこそ、打球によって勝負に行くのか行かないのか、そういう【状況判断】のセンスを磨いてほしい。

 もちろん、打撃においても。長打を狙っていいのか、セーフティーバントもありなのか、右打ちするべきか、ここはヒットじゃなくてボテボテの内野ゴロでもゲッツーはないから1点入る……など。

 【状況判断】という能力は、並木秀尊のようなタイプの選手にはとくに求められると思います。

 その能力が開眼した時には、獨協大初のプロ野球選手がスワローズの真のヒーローになっていることでしょう。

 どうかこのままレギュラーを掴みとってください。

 勝手ながら彼の姿を自分に重ねてしまっている僕。

 どうか、僕が果たせなかった夢を叶えた姿を見せてください。

 自分の殻を破れ、並木!!!

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