『訓戒書』に書かれた「不適切」では済まない「交際」事案
先に述べた通り、17年は全国の警察で「異性関係」の懲戒処分が83件あった。だが筆者の住む北海道では、実は同年の異性関係事案はゼロ。年間の懲戒処分は大麻使用や万引きなど6件に留まっている。
とはいえそれは、飽くまで懲戒処分に限った話だ。不祥事への制裁には懲戒に至らない「監督上の措置」(注意、訓戒)というものがあり、道警では17年、これが76件あったことがわかっている。このうち異性関係事案は18件に上り、いずれも未発表。11月29日に道警本部の巡査部長が「警察本部長訓戒」となったケースは事件として捜査されていたが、これもあかるみに出ていない。
その巡査部長に交付された『訓戒書』には、処分理由として「平成29年9月から10月にかけて、複数の異性と不適切な交際」などと記されている。ところがその「交際」は、どうやら「不適切」の一言では済まないものだったようだ。同年9月29日、巡査部長は深刻な事件を起こし、その2カ月後に送検されていた。道警本部捜査1課の『方面本部長事件指揮簿』には、次の罪名が記されている。
《強制性交等事件》
その年7月の刑法改定で罪名が変わったが、これは一般的には改定前の言いまわしで「強姦」という。言うまでもなく、性犯罪の中では最も重い。すでに述べた通り、警察庁の『指針』では、強姦事件を起こした職員への制裁は「免職」が相当ということになっている。だが巡査部長の処分は、免職どころか懲戒にすら至らない監督上の措置に留まっていた。そしてその処分は公表されず、また事件そのものも一切発表されなかった。事件が起訴されなかったため未発表に終わったようだが、もしも容疑者が警察官ならぬ一般市民だった場合、送検段階で報道発表されていたとしてもおかしくないのではないか。
隠蔽され、捜査にも処分にも手心が加えられる
北海道警の公式サイトの中に、『女性の安全対策』というページがある。性犯罪の被害を未然防止する目的があるようで、ページ内では直近の「前兆事案」をまとめて紹介し、注意喚起をはかっている。そこでは「容姿を撮影された」「声をかけられた」「腕を掴まれた」などのケースが具体的に紹介されているが、先に挙げた警察官の不祥事の深刻さはいずれもそれらの比ではない。
警察官による性犯罪は隠蔽され、捜査にも処分にも手心が加えられる――。一般市民に対して安全対策を呼びかける前に、警察はまず身内の不祥事を、否、犯罪を包み隠さず公表し、徹底的に取り締まるべきではないのか。それが実現しない限り、警察特権で被害を揉み消されて泣き寝入りする女性は、今後も増えるばかりだろう。