今年もまた、株主総会シーズンがやってきた。
筆者は昨年6月、『決戦!株主総会 ドキュメントLIXIL死闘の8カ月』(文藝春秋刊)を上梓した。2018年、大手住設機器メーカーのLIXILでCEOが事実上解任されたものの、翌19年に開かれた株主総会で奇跡的な復帰を遂げた経済事件を題材に、コーポレート・ガバナンス(企業統治)とは何か、企業は誰のものかを考察したものだ。
この本で筆者はコーポレート・ガバナンスに対する日本企業の未熟さを指摘したが、あれから5年が経った。日本の社会や企業のガバナンスに対する姿勢には大きく変わったものとそうでないものがある。また新たな問題も生じている。
そこで6月下旬に到来する株主総会本番を前に、コーポレート・ガバナンスを巡る日本の社会や企業の現在の立ち位置を詳らかにしておきたいと思う。
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大手ゼネコン2社はアクティビストの要求に真正面から向き合った
今年の株主総会は例年とは雰囲気が異なる。
日経平均株価は5月17日に終値で3万円台を付け、その後はほぼ一本調子で上昇した。6月5日には1990年7月以来、33年ぶりに3万2000円台を回復、日経新聞には「日本株、33年ぶりの檜舞台」という大仰な見出しの記事まで載った。そう、今年は「株高下での株主総会」なのだ。
ひと昔前の企業経営者は、相当な緊張感を持って株主総会に臨んだという。東証プライム市場に上場する大手企業の元社長はこう語る。
「株主総会では株主から『株価が安すぎる』なんて厳しい言葉を浴びせられたりする。そんなの適当に返事をして、聞き流せばいいと思うかもしれないけれど、社長って、そういった場面に出くわすことを極度に恐れる生き物なんだよ。普段、社長にズケズケとモノを言う人なんてめったにいないからね」
今年はおおむね企業の株価が上昇している中での株主総会である。この元社長の話を踏まえれば、企業経営者にとって今年の株主総会は、さぞかし心穏やかに臨めるイベントと思っていたが、どうもそうではないらしい。
大手ゼネコン(総合建設会社)の一角、清水建設は4月26日、200億円を上限に自社株買いをすると発表した。さらに5月12日には発行済み株式の5.69%に相当する約4483万株を消却したという。
企業が自社株を買って消却すれば、1株当たりの価値は上昇する。理論的には株価が上がるから、清水建設の株式を保有する株主にとってはありがたい話だ。実際、発表当日の株価は一時前日比10%高の836円まで上昇し、年初来高値を更新した。