キヤノンショック――。
6月7日、NHKが公共放送らしからぬ刺激的な表現で、今年3月に開かれたキヤノン株主総会のもようを伝えた。何が「ショック」なのだろう。
金融機関の系列運用会社が御手洗氏の再任に反対した
くだんの株主総会では27年以上にわたって経営トップを務める御手洗冨士夫会長兼社長CEO(最高経営責任者)の取締役再任に賛成した株主の割合が50・59%にとどまった。株主総会の最重要議案の一つは取締役の選任である。過半数の株主が賛成すれば候補者は晴れて取締役に就けるが、5割に満たないと選任されない。
つまり財界総本山といわれる経団連会長も務めた大物経営者の御手洗氏は、首の皮一枚でキヤノントップを続投することになったわけで、NHKはそれを「ショック」と表現したのだ。
株主総会での議決権行使について、機関投資家はその理由を説明しなければならない。今年のキヤノンの株主総会では国内大手の野村アセットマネジメントや大和アセットマネジメント、三井住友DSアセットマネジメントが御手洗氏の再任に反対した理由を明らかにしているが、問題視したのは「女性取締役の不在」だった。
かつての日本で、会社側が株主総会に諮る議案に国内の金融機関が反対することはまずなかった。会社側の意に反する意思を表明すれば、その後の取引に支障が出ると恐れるからだ。少なくともメーンバンクや主幹事証券、当該企業に頻繁に出入りする生命保険会社が会社提案に反対するケースは皆無だったといっていいだろう。
それは銀行や証券、生保系列の資産運用会社も同じで、おおむね親会社と足並みを揃えた議決権行使をした。株主提案をしても「海外の機関投資家はともかく、国内機関投資家が賛成してくれることはないだろう」とはなから諦めたのはこのためだ。しかし2014年に金融庁が「日本版スチュワードシップ・コード」を策定してから対応は徐々に変わっている。
機関投資家は投資先の企業価値向上や持続的成長を促し、投資資金の出し手である顧客が中長期的に投資リターンを拡大できるようにしなければならない。そうした責任を果たすための原則がスチュワードシップ・コード。平易に言い換えると機関投資家は、投資先の成長を信じて運用を委託してくれている投資家に報いる仕事で、それよりも親会社への忖度が優先されるようなことがあってはならない、と言っているわけだ。
野村証券や大和証券、三井住友銀行にとってキヤノンは重要顧客であっても、系列の資産運用会社がキヤノンの会社提案に反対したのは、各社がスチュワードシップ・コードを遵守しているからとも言えるだろう。