投資家が問題視したのは「女性取締役の不在」
話を振り出しに戻す。「キヤノンショック」とは誰もが知っている大企業が株主総会で諮ろうとした議案に、誰もが知っている金融機関の系列運用会社が反対したことだが、もう一つ見逃せないポイントがある。彼らが反対した理由が女性取締役の不在にあったということだ。
OECD(経済協力開発機構)は昨年、世界各国の主な企業を対象に女性役員(取締役、監査役、執行役。執行役員は含まない)の割合を調査した。それによると調査対象国の中で最も割合が大きかったのはフランスで45・2%。イタリアやイギリスも4割を超えた。米国は31・3%と欧州勢より下回るが、日本はさらに下回り、15・5%にとどまっている。
こうした現状を踏まえ、政府は最近、上場企業における女性役員の割合を2030年までに30%以上にするという目標を掲げた。実効性を担保するため、東証に対してこうした規定を年内に設けるよう促すという。
日本の企業社会で女性の登用が遅れているというのはずっと言われてきたことだ。その声はどの日本企業にも届いているはずだが、真摯に耳を傾けた企業は少ない。それが15・5%という数字に表れているわけだが、機関投資家は打てども響かない態度に業を煮やし、今年はキヤノンの大物経営者の取締役選任議案に反対し、世間の耳目を集めることにしたのだろう。
さて、筆者はこうした機関投資家が促す積極的な女性登用に反対するつもりは毛頭ない。しかし、こうした一種のムーブメントにはやや懐疑的なスタンスを取る。それはこんな指摘を耳にするからだ。
「企業のあるべき姿を模索するのに多様な視点は間違いなく必要です。しかし女性役員の数に数値目標を作ったり、同じく多様性の観点から外国人の社外取締役を招いたりするのはどうかと思いますね。いまどきこんなことを公然と言うと批判されそうだけれど」
東証プライム市場に上場するある大手企業で取締役会議長を務める社外取締役はそう語る。この人は外国人や知見の乏しい社外取締役が含まれていた取締役会の運営にかなり苦労した経験があるからこそ、こんなことを言うのだ。
「昔の社外取締役なら月に1度の取締役会に出席すればよかったかもしれませんが、取締役による監督機能の強化が求められている今はそれでは済みません。真面目に監督しようとすればするほど会社に足を運ぶ必要があります。普段、海外に住んでいる外国人の社外取締役がそれに対応できると思いますか?」
「今、どの企業も女性の社外取締役に入れようと躍起になっています。すると、どうしても能力は二の次になってしまう。女性役員の数に数値目標なんて作ったら本末転倒な争奪戦に拍車がかかってしまうでしょう」