東京地検特捜部は5月18日、自社株を巡る金融商品取引法違反(取引推奨)容疑で「アイ・アールジャパンホールディングス(IRJHD)」元代表取締役副社長を逮捕した。

“ほとんどインサイダー”

 IRJHDは上場企業の株主対応を手掛けるコンサルティング会社だが、2021年4月に業績予想を下方修正することが社内で決まった。元副社長は損失を回避させる目的で、知人の女性2人にアイ・アールジャパン(IRJ)株の売却を勧めたとされる。実際、2人は業績悪化が公表される直前に、保有株を購入時の数倍以上の計約1億8000万円で売り抜けた。

 逮捕された元副社長はちょうどその頃、投資会社の「アジア開発キャピタル」代表と面会し、新聞輪転機メーカー「東京機械製作所」の買収を持ちかけてもいる。アジア開発キャピタルはこの話に乗り、東京機械製作所の発行済み株式の4割を取得したものの交渉は不調。22年2月に同社のユーザーである新聞社6社が22億円で買い取り、買収は不成立に終わった。

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アイ・アールジャパンホールディングスのHP

 マスコミ関係者の間では話題になったこの騒動が、世間に広く知られるようになったのは昨年11月のことだ。インサイダー容疑で逮捕された元副社長がアジア開発キャピタルに買収を持ちかけた一方で、傘下のIRJが東京機械製作所の買収防衛アドバイザーに就き、利益相反行為をしていたことを経済誌の「週刊ダイヤモンド」がすっぱ抜いたからだ。

東京機械製作所(同社HPより)

読売新聞は大激怒

 報道を受けて立ち上がった第三者委員会は今年3月に調査報告書を公表、利益相反行為があったことを事実上認定した。IRJHDは再発防止策や経営幹部の報酬削減を発表するなどして幕引きを図りたい考えのようだが、騒ぎはこれで終わりそうにない。

 東京機械製作所の買収防衛で先頭に立ち、同社の株式買い取りに約17億円を負担した読売新聞の怒りが収まらない様子だからだ。「週刊ダイヤモンド」の求めに応じて読売新聞グループ本社の山口寿一社長が示した「所見」にはこんなことが書かれている。

「アイ・アールジャパングループは再発防止策として利益相反管理体制の整備を表明しましたが、このことのみで事態を収拾させてはいけません。公正な市場のために、論点は矮小化することなく、むしろ拡張して広く検討されるべきです」

読売新聞の山口寿一社長

 一連の不祥事発覚でIRJHDの時価総額は足元で300億円前後に沈むが、21年1月に株価は1万9550円と上場来高値を付け、時価総額は現在の10倍以上となる3000億円を超えた。

 それほど高く評価されたのは、日本企業がなおコーポレート・ガバナンスや株主への対応に不慣れな一方、主としてアクティビスト(物言う株主)による日本企業への株主提案が急増しているからだ。「アクティビストに目を付けられた時にIRJは最も頼りになる存在だった」と、同社のクライアントだった上場企業の社長は言う。

 このセリフを裏付けるかのような数字がある。「週刊ダイヤモンド」によると、上場企業の16 %、時価総額5000億円以上の企業の約5割が同社の顧客らしい(2022年6月18日号)。