東芝の株主総会が6月29日に開かれる。これを前に同社は投資ファンドの日本産業パートナーズ(JIP)など国内連合による東芝へのTOB(株式公開買い付け)について、株主に対して応募を推奨すると発表した。JIPは7月下旬にもTOBを開始する見通しだ。
節目を迎える「東芝問題」
東芝は3月の取締役会でTOBに賛同していたが、株主への推奨は見送っていた。今回、TOBについて株主へ前向きな姿勢を示したため、ほぼ全てのメディアが「東芝が目指していた非上場化をした上での再建が前進することになる」と報道している。不正会計発覚から8年。東芝問題はようやく大きな節目を迎えるということなのだろう。
それにしてもこの間、同社はコーポレート・ガバナンスについて枚挙に暇がないほどの教訓を残した。シリーズ最終回はそのうちの3つを挙げる。まずはよほどの東芝ウォッチャーでない限りは覚えていないような話から始めよう。
「アクティビスト(物言う株主)が大株主として幅を利かせなければ、東芝はこんなことにならなかったに違いない」
東芝が債務超過を回避するため、6000億円の第三者割当増資を実施したのは17年12月。多くを引き受けたアクティビストが経営執行にあれこれと注文を付けたことがその後の東芝の混乱を招いたことは誰もが知ることだが、アクティビストの「やりたい放題」を招いた一因が、足元では勇ましくコーポレート・ガバナンス深化の旗を振る東京証券取引所にあったことは忘れられている。
東芝を「問題なし」と認定した東証の責任とは
増資を実施する約2カ月前のことだ。東証は東芝を特設注意市場銘柄から外した。特設注意市場銘柄に指定されるのは有価証券報告書の虚偽記載など、内部管理体制に不備が認められた銘柄である。
指定された企業は1年ごとに「ガバナンス体制をかくかくしかじか改善しました」という報告書を東証へ提出しなければならない。報告書を受け取った東証が調査を実施して「問題なし」と判断すれば、指定は解除される。問題がなお残るとなれば翌年に再提出をしなければならず、この作業が3回続いても状況が改善されなければ上場廃止になる。
不正会計が発覚した東芝は15年9月15日に特設注意市場銘柄に指定された。1年後に報告書を提出するも東証は「問題あり」と判断。東芝は半年後の17年3月に再提出し、10月12日に「問題なし」のお墨付きを得た。
東証はお墨付きを与えた理由として、(1)社外取締役だけで構成される指名委員会を設置し、取締役の選任・解任プロセスを改善した(2)社外取締役だけで構成される取締役評議会を設置し、意思決定プロセスに対するチェック機能を強化した――などを挙げた。
その後の東芝を見れば調査は形式基準を満たしているかどうかだけをチェックする空疎なもので、東芝の監督体制が何ら改善していなかったことは明らかだ。