上場企業はカネがかかる
2019年にLIXILグループ(現LIXIL)が「チーム」に支払った報酬も莫大だった。
CEOだった瀬戸欣哉氏を事実上解任、経営トップとしてカムバックした創業家出身者は、自身を含む8人の取締役候補の選任を求めた瀬戸氏の株主提案を葬り去ろうと「チーム」を招聘した。瀬戸氏と創業家出身者の激しい攻防が続くなか、経営幹部がLIXILの窮状を伝える文書を機関投資家らに送ったが、そこにはこんなことが書かれている。
〈今回の混乱により外部コンサルタント、専門家への多額の費用の支払いが発生しています。3つの法律事務所、IRアドバイザーそして2つのメディアコンサルタントに更に多くのフィーを払うことになります〉
ここで指摘している3つの法律事務所のうちの1つは西村あさひ法律事務所、IRアドバイザーはIRJ、2つのメディアコンサルタントのうちの1つがパスファインドだ。
未熟な企業は狙われている
先の読売新聞の山口社長は「所見」で、こうした「チーム」についても問題視している。やや長くなるが当該箇所を抜粋する。
「第三者委員会の調査報告書は、IRJグループが19年ごろ以降、敵対的買収や委任状争奪戦など企業の有事に関わる大型案件の取り扱いを拡大させ、それに伴って売上高を急増させたと指摘しています。国内の各法律事務所も同じで、近年は企業の有事に関わる大型案件を受注するのに熱心で、こうした事案で高額の報酬を獲得しています」
「この過程で大手法律事務所とIRJグループが連携して対応する事例が増え、大手と呼ばれる法律事務所のうち特に在京の法律事務所は例外なくほぼ全てがIRJグループと関係をもつようになり、大手法律事務所の弁護士が顧客企業にIRJグループを紹介することもしばしば起きました」
「こうした場合、企業からみると大手法律事務所がIRJグループの信用を補完していることになります」
「所見」にある言葉を拝借すると、企業は「有事」が起きないことを願う。一方、有事はめったに起きない。この願いと可能性が相まって、経営者のほとんどは有事に備えない。そうしたところで実際に有事が起きると企業は慌てふためき、その道のプロに委託して無事を勝ち取ろうとする。「無事が得られるのなら」。そうした思いから企業はプロに膨大な報酬を支払う――。
本シリーズの底流には、日本でコーポレート・ガバナンスの深化が続いているが、その大きなうねりの中にいる日本企業には昔ながらの考え、言い換えれば幼児性が残っているのではないかという問題意識がある。4回目で伝えたいのは、時代の流れと企業の現実の間にあるギャップを稼ぎ口にしようとしている一団が少なからずいるということである。(#5に続く)
(記事中に西村あさひ法律事務所が関西スーパーを代理した旨の記述がありましたが事実誤認でした。そのため関西スーパーに関する記述については削除いたしました。関係者ならびに読者の皆様にお詫びいたします)