「やっていることは昔の総会屋と変わりません」という声も…
健全かつ中長期的な成長を遂げるため、会社の監督機能は高めなければならないという考えに異論を挟む人はほとんどいないだろう。多様な取締役の存在は監督機能の向上に資するという考えもきっと間違いではない。
コーポレート・ガバナンス強化という「錦の御旗」の下、誰も文句が言えない教科書的な主張や、言葉は美しいものの、所詮は建前に過ぎない「あるべき論」が幅を利かせ始めているのではないか。だから女性取締役の不在という理由だけで、取締役再任が否決されそうになる現象には、いささか違和感を覚える。
一昨年5月、米石油メジャー、エクソンモービルの株主総会でアクティビストのエンジン・ナンバーワンが委任状争奪戦に勝利、取締役3人を送り込むことに成功した。
「気候変動に対して情報開示や取り組みが積極的でない」とエンジン・ナンバーワンは主張した。これに多くの機関投資家が賛同したから委任状争奪戦に勝利したのだが、このアクティビストが保有していたエクソン株はわずか0・02%。このため「0・02%の衝撃」と言われた。
「0.02%の衝撃」は特異な例かもしれない。しかし、誰もが「その通り」と言いそうな主張を全面に押し立てて企業を揺さぶる事例は日本でも起きている。昨年5月には欧州系機関投資家3社と豪州の非営利団体が電力卸売業のJパワーに対し、脱炭素への対応強化を求める株主提案をした。
株主提案を起こされたのは同社の発電能力の約4割が石炭火力で占められていたから。結果的に株主提案への賛成比率は2割未満にとどまって否決されたが、これら株主は今年の総会でも株主提案をしている。
脱炭素をテーマとした株主提案はJパワーに対してだけではない。欧州系の機関投資はトヨタ自動車の気候変動問題に関する渉外活動の情報開示拡充などを目的とした定款変更を提案。豪州の非政府組織、マーケット・フォースは国内外の環境団体と共同で、3メガバンクや三菱商事、東京電力ホールディングスなどに気候変動対応の加速を求める株主提案を提出している。
さて、こうした動きについて、ある欧州系機関投資家の運用責任者は「自分たちの正体を明かすようなものだから、大っぴらに言いたくはないことですけれど」と前置きしたうえで、こんなことを言っている。
「最近耳にすることが多いESGは環境や社会、ガバナンスを考慮した投資や経営活動を指します。これは文句の言いようがないモノサシを企業にあてて、基準を超えなさいと要求するものですが、実際のところ欧州の機関投資家が考え出した新しいビジネスモデルといっても過言ではない。企業を揺さぶるという点において、やっていることは昔の総会屋と変わりません」
女性活用、多様性の尊重、環境配慮……。企業にはさまざまなハードルが儲けられるようになり、これを無視することはできなくなっている。しかし、そうした企業の行動原理を見透かして、一儲けを狙う連中がいるのも確かだ。