清水建設株を巡ってはアクティビスト(物言う株主)として知られる英シルチェスター・インターナショナル・インベスターズが21年12月、344億円を投じて発行済み株式の5%分を購入したと発表している。
今回の自社株買いについて会社側は、「海外機関投資家などとの対話を続けてきたことも一因」(山口充穂執行役員)と説明しているから、強い姿勢で株主還元を求めるアクティビストの要求を呑んだか、要求を呑まなかったまでも慮って自社株買いに踏み切った可能性が高い。
「彼らの要請は受け入れられない」。同じ大手ゼネコンの大林組が5月に開いた2023年3月期決算発表で、佐藤俊美副社長はそう語った。
ここでいう「彼ら」とは清水建設だけでなく、大林組の大株主でもあるシルチェスターのこと。「受け入れられない」とは、1年間の配当を42円にすると会社側が株主総会で決議しようとしているのに対し、シルチェスターが「不十分な株主還元だ」として54円を要求、株主提案に踏み切ったことを指す。会社側は「1株あたり年54円も払えるか」と主張したわけだ。
清水建設はシルチェスターの要求を呑んだ。一方、大林組は要求をはねつけた。両社には大きな違いがあるが、アクティビストの要求に真正面から向き合ったという点では共通する。長年ゼネコン業界の経営を分析しているアナリストは、「世間からどんなに叩かれても談合やカルテルを繰り返してきたゼネコン業界が、これほど外野の声を聞くとは思わなかった。時代も変わったものだ」と笑う。
求められるコーポレート・ガバナンス・コード
株式会社の経営者は株主と真摯に向き合わなければならない。この当たり前を日本の経営者は長らくおざなりにしてきた。それを可能にした要因の一つは株式の持ち合いだ。ある企業が株主総会に諮った議案に、持ち合いをする企業は無条件で賛成するという慣習が長年続いたせいで、経営者は株主を軽んじることに何の違和感も持たない時期が続いた。
しかし、この悪弊はもはや許されなくなっている。金融庁と東京証券取引所が15年にコーポレート・ガバナンス・コードを策定し、上場企業に適用し始めたことが大きな要因だ。
コード策定のきっかけは1年前の14年に経済産業省が「伊藤レポート」を公表したことに遡る。当時、一橋大学の教授だった伊藤邦雄氏が座長を務めたので、そう呼ばれることになったこのレポートは、ありていに言うと、「日本企業が海外機関投資家の関心の外にあり、株価が割安なままなのは、コーポレート・ガバナンスを軽視しているからだ」と指摘した。
世界の投資家に再び関心を持ってもらおうと策定されたコーポレート・ガバナンス・コードには「株主の権利・平等性の確保」「株主以外のステークホルダーとの適切な協働」「適切な情報開示と透明性の確保」「取締役会等の責務」「株主との対話」という企業に求められる5つの原則がある。
このうち「株主との対話」は、「経営陣は株主やステークホルダーに経営方針や新規事業や既存事業の計画を含めた今後の施策などを分かりやすく説明し、その中で懸念点があれば適切な対応しなければならない」という意味である。先述した清水建設が自社株買いに踏み切り、大林組の幹部が記者会見で「要請は受け入れられない」と語ったのは、「株主との対話」の結果なのだ。