TOPIX500企業の4割超は市場で「解散させた方が良い」と判断されている
今年、日本企業はこれまで以上にコーポレート・ガバナンスと真面目に向き合わなければならなくなる出来事があった。3月31日、東証がプライム市場とスタンダード市場に上場する約3300社に「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願いについて」というタイトルの通知文を出したのがそれだ。
東証は上場企業に対するコーポレート・ガバナンス・コードの適用やコードの改訂をしてきたが、企業がさらに踏み込んだ対応をすることで企業価値の向上を図るよう求めた。
こんな通知文が出たのは、日本企業がなお世界中の投資家からまっとうに評価されていないと考えたからで、PBR(株価純資産倍率)と呼ばれる指標に基づいた企業の評価を証拠として出している。PBRは株価を1株あたり純資産で除したもので、1倍を割ると理論上は会社を畳んで、手持ちの資産を全部売り、お金に換えたほうが良い状況ということになる。
TOPIX(東証株価指数)500を構成する企業のうちPBR1倍割れ企業は全体の43%に達する。TOPIX500構成企業には誰もが知る大手が入っているのに、その4割超がマーケットで「会社を解散させた方が良い」と判断されているというのは、さすがにおかしいだろう。
ちなみに米S&P500を構成する企業のうち、1倍割れ企業はわずか5%に過ぎない。東証は「日本企業は世界中の投資家にスルーされている。経営者はPBRを上げる努力しなければならない」と説いているのだ。
約3300社に対する通知文で東証はROE(株主資本利益率)も意識するよう求めている。一般的に機関投資家が意識する目安は8%。S&P500を構成する企業の86%は目安を超えているが、TOPIX500構成企業で8%超なのは60%しかないと指摘している。
「あなたたちは欧米企業のようにPBRやROEを上げなければならない」。東証が事実上そう突き上げるのは、日本企業の経営者が売上高や利益といった指標に拘る傾向が強いからだろう。「投資家はPBRやROEのような同じものさしで世界中の企業を測りたい。その意向に従いPBRやROEを意識しなさい。そうすればスルーされなくなる」。それが東証の言いたいことなのだ。
東証が通知文を出した3月31日の日経平均株価の終値は2万8041円48銭。それから2カ月あまりで3万2000円を超えた。この株高は、経営者が10年近く前から求められてきたコーポレート・ガバナンス強化に拍車がかかったからだ。
しかし、またぞろおざなりな対応が続けば、企業はマーケットから手痛いしっぺ返しをくらう。株高下での株主総会なのに、経営者は心穏やかではないと指摘したのは、彼らが世界中の投資家やマーケットから匕首を突きつけられているようなものだからである。