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 2009年には『マレーヒルの幻影』で初舞台を踏んだ。このとき、あまりに大変だったので、終わった直後は「当分、舞台をやろうという気持ちにはならないだろう」と思っていたが、半年もするとまたやりたいとの思いが湧いてきたのが自分でも不思議だったという(『週刊朝日』2013年5月24日号)。以来、出演するたびに苦手だと感じながらも、舞台に立ち続けている。

 2019年には、新進気鋭の劇作家・演出家の根本宗子の手がける舞台『クラッシャー女中』に出演、ある企みから金持ちの屋敷に女中として潜りこむ欲望むき出しの主人公を演じた。同年にはNHKの大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』で、阿部サダヲ演じる主人公・田畑政治の妻を演じたが、こちらは上述の舞台とは対照的に、ほとんどしゃべらない寡黙な役で、その演技の振り幅の大きさに驚かされた。

©文藝春秋

「こんなストレスの溜まる現場は初めてだった」

 2011年の映画『モテキ』公開時のインタビューでは、麻生は自らを「正直すぎる人」と評し、こんなふうに監督の大根仁との関係をぶっちゃけていた。

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《監督、最初は絶対私に興味なかったと思うんですよね(笑)。じゃないと、初対面の人間に一方的に攻撃なんてしないと思いますもん。この映画の撮影があるまで、現場って楽しいものだと思ってたのに、こんなにストレスの溜まる現場は初めてだった(笑)。あんまりつらいから、監督さんにちょっとずつ言い返していって。それでようやく、言いたいことが言える仲になりました》(『週刊文春』2011年9月22日号)

『モテキ』(2011年)

 この発言からは、麻生が『カンゾー先生』以来、監督とともに作品をつくりあげることをいかに大切にしてきたかがうかがえる。

 近年は、先述の『クラッシャー女中』や『unknown』のほか、飛行機事故で亡くなった女性マンガ家の魂が、機内で隣り合わせた男性に乗り移るというぶっ飛んだ設定のドラマ『あのときキスしておけば』(テレビ朝日系、2021年)など、現実離れした役を演じることが目立つ。とはいえ、それは彼女の一面にすぎない。

 8月に公開予定の映画『高野(たかの)豆腐店の春』(三原光尋監督)は広島県尾道の豆腐店を舞台に、真っ向から親子の愛情を描いた作品らしく、彼女は大ベテラン・藤竜也の娘役を務める。この機会に、麻生久美子を正統派の映画俳優として改めて見直してみたいところである。