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トマ・ピケティが分析した“正確なジェンダー格差”「賃金格差よりも問題なのは…」

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だが実際には…

 だが実際には、下図「女性の労働所得が全体に占める比率、地域別(1990~2020年)」に示したように、理想にはほど遠い。

解説:1990~2020年に北アメリカにおける女性の労働所得の比率は34%から38%に上昇した。
資料:wir2022.wid.world/methodology et Neef et Robilliard (2021).

 改善が見られた国はたしかにあった(たとえばヨーロッパでは、この比率は過去数十年で30%から36%に上昇した。逆に言えば、所得合計の64%は男性が手にしている)。

 その一方で、後退している国もある。たとえば中国は共産主義の伝統からか、他国よりいくらか女性の労働所得の比率が高かったのだが、ここ数十年で後退している。主な原因は、男性の高額報酬が大幅に増えたことにある。もっともこれは中国に限った現象ではない。

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 この種の指標には、実態を間接的にしか示せない他の指標に比べ、ジェンダー格差の大きさを正確に表せるメリットがある。

 ジェンダー格差を見るとき、同じポスト(地位、職階)での賃金格差だけを見て満足してしまうことが多いが、同じポストに就く機会が男女で同じではないことのほうがよほど問題である。

 今回注目するのは労働所得合計に占める男女それぞれの比率であり、そこに差がつく要因はじつにさまざまだ。

 あるポストにおける賃金格差もたしかにあるが、それは10~20%程度に過ぎない。それ以外に、就けるポストに男女で差があること、パートタイム労働を強いられること、高報酬のポストに女性がいないこと、女性に昇進の機会が少ないこと、などの要因がある。

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