2013年に刊行されると、その後、世界各国で100万部以上を売り上げ、“今世紀で最も売れた経済専門書”ともいわれる『21世紀の資本』。

 膨大な統計データをもとに、経済成長を期待して資本主義を放置すれば、世界に広がる「貧富の差」はますます拡大することを明らかにし、著者のトマ・ピケティは“21世紀のマルクス”とも評されました。

 あれから10年、気候変動、ジェンダー格差、巨大テック企業への富の集中など、世界が抱える喫緊の課題を受けて、『21世紀の資本』で提案したグローバル資本課税にとどまらず、政治や社会運動によって、平等を勝ち取る必要性を、ピケティは主張しました。その論考が最新刊『自然、文化、そして不平等――国際比較と歴史の視点から』(文藝春秋・7月11日発売)です。ピケティの最新思想の中でも注目すべき「ジェンダー格差」論を、『週刊文春WOMAN2023夏号』より先行公開します。

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 ピケティが共同ディレクターを務める「世界不平等データベース」(World Inequality Databace https://wid.world/)では、世界70か国以上の100 名を超える研究者の国際ネットワークの共同作業にもとづいて、1800年以降の世界の国や地域についての比較可能なデータを公開している(日本語表示あり)。

Thomas Piketty

 本稿は、そのジェンダー格差の実態調査に基づいている。

 ピケティはまず、「ここでは、労働所得(賃金および賃金以外の報酬)の合計に占める女性の労働所得の比率という単純な指標を算出した」と書く。

 男女が完全に平等な社会であれば、女性の労働所得が全体に占める比率は50%になるはずだ。いや実際には労働時間を勘案すれば(当然ながらそこには家事労働も含まれる)、女性の労働時間は全体の50%をつねに上回る。よって理想的には、女性の労働所得の比率は50%を上回るべきだ。