デビューから順調に順位戦の昇級を重ね、21歳と2か月という若さで史上最年少名人に輝いた谷川浩司十七世名人。2022年の十七世名人襲位に至るまでの軌跡を改めて振り返っていただくとともに、今後の目標を伺った。
日本のプロ棋士全250名を完全網羅した『プロ棋士カラー名鑑2023』(扶桑社)より、一部を抜粋して紹介する。
十七世名人への襲位をお受けしていいのだろうかという気持ちも
――この度は、十七世名人の襲位おめでとうございます。まず、十七世名人を襲位されるまでのいきさつ、そして襲位をご決断されたキッカケなどについてお聞かせください。
谷川浩司十七世名人(以下、谷川) 十七世名人への襲位ですが、2022年の3月頃に日本将棋連盟の理事から60歳を迎えるにあたって襲位されてはどうかという打診がありました。襲位は原則引退後となっていますが、永世名人に関しては、その都度判断ということに加え、中原誠十六世名人も60歳で永世名人を襲位されたということもあり、ありがたくお受けすることにしました。しかし、大山康晴十五世名人や中原十六世名人はひとつの時代を築かれた大名人であるのに対し、私はギリギリの5期で永世名人になったものですから、そういった意味でお受けしていいのだろうかという気持ちもありました。
――世襲制から実力制へと移行し、もっとも深い歴史を持つ名人戦ですが、谷川十七世名人にとって“名人”に対する思い、そして将棋界にとってどのような存在であるかお聞かせください。
谷川 そうですね。名人は411年前の1612年から存在する称号で世襲制から実力制に移行してからも当然、棋戦の中では一番歴史が長いものとなります。現在は8つのタイトルが存在していますが、名人戦以外のタイトルは、新四段でも1年ちょっとでタイトルを獲得できる可能性があるのに対し、名人戦に関しては最低でも5年の歳月が必要となります。しかも、その5年もの間、安定した実力と成績を残さなければ名人になることはできません。それだけ重みのあるタイトルであり、他のタイトルとは異なるところだと思います。
また、実力制に移行し、今期で81期を迎えた名人戦ですが、最初の40年と後半の40年は様変わりしていると感じています。最初の40年は、木村義雄名人をはじめ大山名人や中原名人も、名人だけでなく他のタイトルもほとんど持っておられ、名人イコール第一人者。時代を築かれたというイメージでしたね。後半の40年に関しては、私を含め名人が連覇を重ねるというよりは、挑戦者が奪取して入れ替わりの多い40年だったと思っています。