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「女の子はガードが固いから、男の子を狙う」性加害者も…「ジャニーズ性加害」問題がいまだ解決しない“日本に足りないもの”

内田舞×ふらいと「ソーシャルジャスティス」特別対談 #1

source : 文春新書

genre : ライフ, 社会

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ふらいと 日本の小児学会でも最近よく言われているのは、性の知識を教えるだけでなく、それを通じて相手の人権や同意を考えるという包括的性教育の必要性ですよね。ユニセフの提言を受けて、日本でも5歳から性教育を始めましょうという意見が出てきています。

 では何を教えるのかというと、プライベートパーツは他の人に見せてはいけない、触れさせてもいけないということ、そして相手の体に触れるときは同意が要るという同意教育の必要性が言われています。とはいえ、日本ではまだ学校でも保育園でもなかなか教育が難しいところがあって、現状は家庭教育が基本ですよね。

新生児科医・小児科医のふらいと(今西洋介)先生(写真:本人提供)

内田 ただ、同意教育は家庭でも明日から実践できるものだと思います。自分の意見がイエスであってもノーであっても聞き入れられるという経験があれば、自分の意見を言葉にする意義が感じられる。逆に意見を言ったのに聞いてもらえないような経験が重なるごとに、自分の意思表示には意味がないという思いが積み重なってしまう。

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 自分の望みが叶えられるように環境に働きかけられるようになるためには、答えがイエスであってもノーであっても、それが受け入れられるという経験が多いほどいいわけで、育児中の方には、そういった経験の機会をお子さんたちに増やしてあげることを意識されてみたらいいと思います。

 私がもう一つ意識しているのは、ふらいと先生のように、プライベートパーツの名前などを恥ずかしがらずに口にすることも含めて、話題に出たら隠さずに話すことです。「これは触れてはいけない話題」とか「これは秘密」となった途端に、そこには大きなパワーが宿ってしまう。そしてそのパワーって大抵ネガティブな方向に働くんですよね。

 我が家は8歳、6歳、2歳の三人兄弟ですが、長男と次男には、マイケル・ジャクソンの小児性被害性加害の話もしましたし、中学生が自撮りで撮ったプライベートパーツの写真が流出したという報道がされたときにも、隠さず話しました。それは人種差別の問題も、戦争の話題もそうですね。

ふらいと 僕のところは子どもたちが三姉妹なのですが、小児科医であっても男性側から女の子への性教育って結構ハードルが高いんですよね。僕の場合は小さい頃から性教育の絵本を導入していて、「ここだいじ」とプライベートパーツの大切さを教えてくれる『だいじ だいじ どーこだ?』(大泉書店)という絵本の読み読み聞かせをした経緯があります。ただ幸いなことに妻が助産師で、子どもたちが思春期に入ってきたこともあって、月経の教育などは妻に任せているのが現状ですね。

「自分の意見や体を誰かに強要するのは駄目」

内田 私は性教育ということから離れて、相手からノーと言われたときの捉え方について子どもたちに教えるようにしています。例えば過去に、長男と次男がトランポリンで遊んでいたとき、二人の体が折り重なっていたことがあって、最初は互いに楽しんでいたんですが、途中で下にいる側が怖くなって、乗っていた方に「やめて」と言ったことがあったんです。

 そのときに私は、“No means No”、つまり「ノーはノー」だから、どんなにそれまで二人が楽しんで遊んでいたとしても、相手がノーと言ったらそれを尊重しなければならない、と伝えました。別に「ノー」と言われることは自分が拒絶されるわけでもなければ、相手へのリスペクトがないわけでもなく、単なる「ノー」なのだと淡白に捉えて、今していることはやめるんだよ、と。

「自分の意見や体を誰かに強要するのは駄目だよ」「相手がノーと言ったらとにかくノーなんだよ」ということを、性という話題から離れて会話するように心がけていますね。

ふらいと 舞先生がおっしゃるように、同意不同意につてはまず親子間で話して、それがベースとなって外の人にも話せるようになるわけですよね。その意味で同意不同意の話が大事なのは間違いありません。

 ただ実際に性加害を受けたとき、被害者の7割ぐらいはフリーズしてしまうと言われています。要するにノーとも言えずに、被害を受けた瞬間に固まってしまうわけです。だから実際は、触られそうになったらどう逃げるかというシミュレーション、練習を普段から家庭でしておくのが大事だと言われています。

 ちなみに男の子の被害の話もありましたが、加害者に話を聞いてみると、女の子ってガードが固い、だからガードが緩い男の子を狙う、と言うんです。男の子は、男の子の父親も含めてガードが緩いんですね。「まあ、うちの子は大丈夫だろう」と思いがちだと。

 だから男の子、女の子を問わず、逃げる練習をすることが大事だと思いますね。触られそうになったら大声を上げる練習だとか、パッと体を動かす練習をするのも大事だと思います。あとは舞先生が言っていたように、普段から家庭で話すこと。ニュースでこれを聞いたことがあるとか、ニュースを見ながらお母さんお父さんがこう言っていたという経験があると、少しずつ体が動くようになるんですよね。

内田 聞いたことがあると思えるだけで違いますよね。格闘技で名前がついている技をかけられるときは、それに対応できるけれども、名前がついていない初めての技をかけられる場合は対応できないという話を聞いたことがあって、それにも似ていると思います。何も知らない状態で身体を触られると子どもは何がなんだかわからずに凍ってしまいますが、「これ、絶対大人が子どもにしてはいけないことってママが言ってたやつだ」と気付くだけで、逃げる、嫌だと示す、誰かに相談するなどの選択肢が生まれるものです。

 ちなみに性加害は女性が加害者になる場合もあるし、今回のジャニーズ問題、あるいはマイケル・ジャクソンの性加害問題で明らかになったように、加害者、被害者ともに男性である場合もあります。(#2に続く)

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。

「女の子はガードが固いから、男の子を狙う」性加害者も…「ジャニーズ性加害」問題がいまだ解決しない“日本に足りないもの”

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