ジャニーズの小児性加害問題が注目を集めるいま、小児性加害に大人はどう向き合ったらいいのか。『新生児科医・小児科医ふらいと先生の 子育て「これってほんと?」答えます』(西東社)の著書があり、小児性被害についてSNSやニュースレターでの啓発活動を続けている新生児科医・小児科医のふらいと(今西洋介)先生と、『ソーシャルジャスティス 小児精神科医、社会を診る』が話題のハーバード大学准教授で小児精神科医の内田舞さんが語り合う。
小児性被害の現状、法律の改善点は? 心理的な影響は? そして我が子を被害から守るために、社会から小児性被害をなくすためにできることとは?(全2回の1回目/後編を読む)
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ネット炎上の波に乗らないために
ふらいと 僕は日本で小児科医と新生児科医をやっているのですが、それと同時に、メディアやニュースレターで小児性被害の啓発活動もしています。舞先生は小児精神科医でメンタルヘルスの専門家ですが、僕は小児科医という疫学者の立場から、小児性被害を科学することに日々精進しています。
内田舞(以下、内田) 漫画『コウノドリ』の取材協力をされている医師として先生のことをご存じの方も多いかもしれません。
さて、私はハーバード大学医学部の准教授で、ハーバード大学付属病院のマサチューセッツ総合病院の小児うつ病センターという子どもの気分障害を扱うセンターのセンター長をしております。小児精神科医として子どもの心の不調や不安障害、ADHDのような発達障害なども診ています。また、研究者として感情のコントロールに関わるような脳神経科学の研究をしている脳神経科学者でもあります。そして最近、『ソーシャルジャスティス』という本を出版しました。
この本は、私自身も経験したネット上の炎上といった波に乗らないために、社会の分断や差別を乗り越えるためにはどうしたらいいのかという、なかなか答えが出ない問いに対して、私の専門である心と脳のメカニズムに立ち戻ってみたり、アメリカに暮らす中で感じる変化を捉えてみたり、また、3人の子どもを育てる母親の立場からの個人的なエピソードを通して、私なりに考えた社会を前進させるヒントについて語ってみたものです。
ふらいと 読みましたよ。特に「子どもに学ぶ同意とアドボカシー」の章が響きましたね。米国小児科学会と提携している日本小児科学会から、アメリカの小児医療の現在について教えてもらったりすることもあるんですが、日本ではまだまだアメリカのように子どもファーストの医療が進んでいないので、日本の小児科医もこれから頑張っていかなければと思って興味深く読ませていただきました。
内田 ありがとうございます。適切な日本語訳が見つけられずにカタカナ表記になってしまったんですが、アドボカシーとは、自分の希望が叶えられるために、自分の周りの環境や社会に働きかける過程のことです。そう言うと何か大それたものに聞こえるかもしれません。
でも、例えば学校からの連絡メールを見逃さないように件名を変えてほしいと学校に働きかけてみるとか、そういった小さなこともアドボカシーなんですよね。自分の要求が通るように環境に働きかけてみる――それは変化を生む上でもとても大事な考え方だと思うのですが、日本にはそういった土壌があまりないかもしれない。そんな思いもあって、アメリカで子育てするなかで、診療にあたるなかで出会ったアドボカシーと、それから同意についても同じ章で書きました。