小児性被害についてSNSやニュースレターでの啓発活動を続けている新生児科医・小児科医のふらいと(今西洋介)先生と、『ソーシャルジャスティス 小児精神科医、社会を診る』が話題のハーバード大学准教授で小児精神科医の内田舞さんの対談の後編をお届け。
性的暴行における被害者の負担が大きい日本の現状や、これから変えるべき課題について語ってもらった。(全2回の2回目/前編を読む)
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日本の刑法に欠けているもの
ふらいと 世界的には、性被害の内訳は女性や女の子:男性や男の子がおよそ2:1と言われていますね。日本だと9:1という数字が出ていますが、世界的な疫学データはもう少し開きが少ない状況です。
あと伝えておきたいのは、日本は法律整備がめちゃくちゃ遅れているということです。2017年に刑法が改正されるまでは「暴行又は脅迫を用いて,女子を姦淫した者は,二年以上の有期懲役に処する」(旧刑法269条)という形で、性犯罪の被害者の対象は女性限定で、例えば肛門性交とか口淫性交を罰することはできなかった。そこから改正を経て厳罰化されて、ついこの前、性交同意年齢を13歳から16歳に引き上げる改正法案が成立しました。それでようやく先進国スタンダードに追いつくという最低限のものではあるんです。
内田舞(以下、内田) 私は、この日本の性交同意年齢の低さというのは日本の問題を象徴していると思います。アメリカの場合は、州によって幅があるものの性交同意年齢は16歳から18歳で、例えば30代の大人が中学生の子どもと性行為をした場合、それは自動的に罪になります。
でも日本の性交同意年齢は長らく13歳以上だったわけで、例えば性被害を受けたとしても、性行為に同意できる年齢であったと判断されて、相手が罪に問われないこともあったわけですよね。子ども側が被害を訴えるには、「同意がない状況だった」ということを証明しなければならなかった。エビデンスの提供が被害者側の子どもに求められることも、それを子どもに供述させるというのも最悪だと思います。
ふらいと それはすごく大事なポイントです。日本では、小児性被害の半数以上が不起訴なんです。それは被害者である子どもの証言が必要になってくるからです。つまり、「この人にこんな性被害を受けた」ということを法廷で証言した段階で、ようやく被害が認定されるわけですが、証言は多くの子どもにとって難しい。
内田 さらに証言の中でもかなりのディテールを聞かれるんですよね。
ふらいと アメリカにはチャイルドアドボカシーセンター(CAC)という、子どもの性犯罪に特化したセンターが900ぐらいあるんですけど、日本には3施設ぐらいしかないんですよ。このCACの何がいいかと言うと、被害を受けた子どもの回復にフルにコミットできるということです。というのも日本の場合、被害を受けた子どもたちのもとに検察官や弁護士が来ては、どういう状況だったのか、同じ質問を何回も何回も浴びせるわけですね。
例えば、男性器をどこまで口に入れられたか、喉に当たったかどうかというようなことを何回も質問される。それは大人でも答えるのが辛いですし、法廷でそれを証言できるかというと難しい。制度の整備が追いついていないうえに、今回の性交同意年齢の改正案にも、この証言の問題に関しては一切盛り込まれなかったわけです。
内田 なるほど、まだまだ課題がありますよね。お子さんの場合、加害者は被害者の近くにいるケースが多いわけですよね。例えば親であったり近所に住む親戚であったり、ジャニーズのケースのように芸能活動をする際の所属先の社長だったり。日ごろお世話になっていたり親愛の気持ちを持ちながら、被害に遭ったそのディテールを人前で話さなければならないという子どもの辛さは、まったく蔑ろにできないなと思います。