日本はもはや豊かな国ではなくなった。2019年の国民生活基礎調査で「生活がやや苦しい・大変苦しい」と答えた世帯は54.5%。ところが日本では、困難な状況にある人が声を出して助けを求めるのは恥という風潮が強く、貧困の実態が見えづらい。
ここでは、不動産管理会社に勤務しながらルポライターとして取材活動を続ける増田明利さんが、経済的に困窮している17人に取材し貧困社会の実態を浮き彫りにした『お金がありません 17人のリアル貧困生活』(彩図社)から一部を抜粋。
42歳でトリプルワークをしているが、暮らしはギリギリだという平野和之さん(仮名)の声を紹介する。(全4回の3回目/4回目に続く)
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平野和之(42歳)
出身地:東京都武蔵野市 現住所:神奈川県川崎市 最終学歴:高校卒
職業:アルバイト、派遣など 雇用形態:非正規 収入:17~20万円
住居形態:賃貸アパート 家賃:4万8000円
家族構成:独身、両親は既に他界。他に兄が2人
支持政党:公明党 最近の大きな出費:ポケットラジオ購入(1280円)
就職先が廃業、転職できないまま30歳に
2つ目の仕事場に向かうのは夕方4時半頃。宅配寿司店のデリバリースタッフで5時から9時までの4時間勤務だ。
「今は3つの仕事を掛け持ちしています。1日4時間だったり週末1日だけだったりの非正規です」
年間を通してやっているのは食品雑貨スーパーの半日アルバイトと、この宅配寿司店の出前持ちだけ。あとは派遣会社や業務請負会社経由で1ヵ月~2ヵ月の期間限定の仕事をいくつかこなしている。
「年初からだと8社の仕事をやっています。そろそろあちこちから源泉徴収票を送ってくるけど全部合算してもたいした収入じゃありません」
1つの仕事だけで月20万円ぐらい稼げればいいのだが、現実には短時間の非正規仕事しか得られない。
「年齢が42歳ですからね、新鮮味はないものな……。時給1000円ちょっとの仕事をいくつもやってどうにか暮らしているわけですが、時々、俺は何をやっているんだって自己嫌悪に陥ることがあります」
高校を卒業して印刷会社に就職したのは98年だった。
「工場勤務でオフセット印刷機のオペレーターを担当していました。丸10年と数ヵ月勤めたのですが廃業することになって、それで失業したわけです」
廃業の理由はいろいろあったが、業務量が減少し、今後も回復が見込めないからということだった。退職したのは08年の7月末。