日本はもはや豊かな国ではなくなった。2019年の国民生活基礎調査で「生活がやや苦しい・大変苦しい」と答えた世帯は54.5%。ところが日本では、困難な状況にある人が声を出して助けを求めるのは恥という風潮が強く、貧困の実態が見えづらい。
ここでは、不動産管理会社に勤務しながらルポライターとして取材活動を続ける増田明利さんが、経済的に困窮している17人に取材し貧困社会の実態を浮き彫りにした『お金がありません 17人のリアル貧困生活』(彩図社)から一部を抜粋。
事務職をしていたがコロナ禍でリストラされたという松井妙子さん(仮名)の声を紹介する。(全4回の2回目/3回目に続く)
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松井妙子(29歳)
出身地:栃木県鹿沼市 現住所:神奈川県横浜市 最終学歴:大学卒
職業:派遣社員(前職は小売業の事務職) 雇用形態:非正規 収入:約15万円
住居形態:賃貸アパート 家賃:4万7000円
家族構成:独身、実家には両親、祖母、弟、妹 支持政党:自民党
最近の大きな出費:特になし
やむを得ず退職
羽田空港近くの人工島、ここに建っている巨大倉庫が今週の職場。広さはテニスコート5面分くらいで、様々な商品が集められている。
仕事内容は、ネット通販やテレビショッピングなどで消費者が注文した品物を棚から取り出し、配送用の段ボール箱に入れて納品書などを同封する。次に発送票を貼り付けカートに移して一丁上がり。
1日中だだっ広い倉庫内を歩き回り衣料品、事務用品、化粧品、装飾品、食料品、書籍などの棚をせわしなく行き来する。
「かなりの重量がある商品もあります。退勤する頃には両腕、膝、腰が痛くなって、ふくらはぎもパンパンに張っちゃうんです」
荷物を持って小走りに動くことが多いからきつい仕事だ。
「栃木から上京してきたのは16年です。こちらの会社に就職したもので」
地元の大学を卒業して入社したのは都内と神奈川県を地盤に展開している食品・雑貨スーパー。本部で事務職をやっていた。
「新規学卒の正社員でしたが給料は安かったです。仕事もあまり面白くなかったし、刺激もなかった。だけどこれが現実かっていう感じでした。辞めて転職しようと考えたことはないですね」
不満はあっても正社員。給料も少しずつ上がっていったのでそれなりに満足するようになっていった。
「ところがコロナでおかしくなりました」