各店舗は時短営業で夜6時には閉店。従業員が感染した店舗は保健所の指導で2週間の自主休業、納入業者が感染した場合は予定通りの商品が届かないこともあった。
「閉店した店舗もあり、パートやアルバイトの人には辞めてもらったそうです」
そのうち契約社員、次に正社員の人減らしも始まり松井さんもリストラ対象になったという次第だ。
「コロナのせいで業種を問わず倒産が増えているという報道を見ました。勤めていたのはやや規模の大きい中小企業だから、影響が大きかったのでしょうね」
扶養家族のいる人は残してやりたい。君はまだ若いのだから再就職は可能だろう。
こんな説得もあったということだ。
「不安はありましたが、本当に倒産なんてことになったら一大事ですから。退職金は出るし少ないけど転身見舞金も加算するという話だったので、辞めた方が得だと思ったんです」
本部の管理職、各店舗の店長、フロアリーダーの退職も始まったので、これは危ないのかもと思い、21年2月に退職した。
満足のいく職場にありつけず
「ハローワークで諸々の手続きをし、失業手当を受けながら転職活動を始めたのですが厳しかった」
食品会社の募集に応募したものの、1週間後に募集そのものを中止しますという連絡があり提出した書類を返送してきた。
「医療法人の事務職募集に応募したときは説明会があったのですが、担当者が採用予定は1名と言っていました。その説明会には20人以上が出席していたのでこれは無理だと思いましたね」
前職が小売業なのでハローワークの担当者から同業他社を勧められたこともあるが、正規雇用ではなく長期アルバイトが主流。事務管理部門ではなく店舗要員で、時給は1050円から1100円が相場。ブラック度も高そうでやりたいとは思わなかった。
「ちょっと前までは人手不足なんて言われていたし、わたしもまだ27歳だったから、簡単ではないだろうけどそれなりの再就職先があるとたかをくくっていました。これが完全な見込み違いでした」
コロナウイルスに対しても舐めてかかっていた。
「わたしの周りの人、親しい人、身内で感染した人はいなかったし、わたし自身も体調を崩すようなことはありませんでした。だからコロナ、コロナって騒ぎすぎじゃないのって思っていたんです。夏頃になれば収まっていると楽観していましたね」
そうこうしているうちに頼みの綱だった失業手当も終了に。再就職もままならない状態だったのでとりあえずアルバイトを探してみたが、これも狭き門だった。
「アルバイトの定番だと思っていた飲食関係は営業自粛や時短営業のあおりでどこも募集なし。しょっちゅう募集していた近所のコンビニもアルバイト募集の貼り紙を外していました。東京23区でアルバイト先を探すのにこんなに苦労するとは思いませんでした」
そこで派遣に方向転換したがオフィスワーク系は派遣でも少なく、なかなか連絡がなかった。反面、現業職系ならすぐに紹介できると言われ「ここは繋ぎのつもりで」ということでワーカー登録した。
「登録して半日で何件も連絡がありました。確実に需要があるんでしょうね」