日本はもはや豊かな国ではなくなった。2019年の国民生活基礎調査で「生活がやや苦しい・大変苦しい」と答えた世帯は54.5%。ところが日本では、困難な状況にある人が声を出して助けを求めるのは恥という風潮が強く、貧困の実態が見えづらい。

 ここでは、不動産管理会社に勤務しながらルポライターとして取材活動を続ける増田明利さんが、経済的に困窮している17人に取材し貧困社会の実態を浮き彫りにした『お金がありません 17人のリアル貧困生活』(彩図社)から一部を抜粋。

 脱法ハウスでお正月を迎えたという柴山和彦さん(仮名)の声を紹介する。(全4回の1回目/2回目に続く) 

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柴山和彦(28歳)

出身地:青森県八戸市 現住所:東京都台東区 最終学歴:高校卒

職業:日雇い派遣、日々紹介など 雇用形態:非正規 収入:日当8800円~1万円

住居形態:シェアハウス 家賃:4万2000円 家族構成:独身 

支持政党:特になし 最近の大きな出費:防寒ジャンパー(3980円)

失業で寮を追い出される

 JR線の某駅から徒歩10分ほどの場所にあるビル。かなり老朽化した5階建ての建物だ。見た目はどこにでもある雑居ビルだが造りはちょっと変わっている。出入口は外から見えない鉄板製の一枚ドア、開けると細い通路の横壁に40個近くの郵便受けがズラリと並んでいる。

「ネットの案内ではシェアハウスと謳っていたけど、実態は少し前から問題視されている脱法ハウスですよ」

 ここに転がり込んできたのは21年の5月。とりあえずのつもりだったが年を越してしまった。

「青森の高校を卒業して地元の水産加工会社に就職したのが13年です。だけど人並みの暮らしや収入があったのは5年ぐらいでした」

 18年の夏前に会社が倒産。約半年は地元で職探ししながらアルバイト的な仕事をいくつかやっていたが月収は10万円あればいい方。

「小遣い稼ぎみたいなことをやっていてもしょうがないので、19年の年初に製造業派遣という出稼ぎで関東に来たんです」

 派遣会社から強く勧められたのが自動車メーカーの工場。

「有名な会社だったから、ここで生活を安定させようという思いが強かったですね。月収30万円以上というのも魅力だった。青森ではあり得ない金額だから」

 住まいは派遣会社が契約しているアパートを寮としてあてがわれた。

「働き始めた当初は夜勤や残業が多かったので、かなり稼げました。寮費や社会保険料を引かれた手取りで25万円前後になったから」