文春オンライン

「布団を敷く広さがない」押し入れも窓もない…派遣切りに遭った男性(28)が仕方なく続ける、家賃4万2000円の“脱法ハウス”暮らし

『お金がありません 17人のリアル貧困生活』より #1

2023/07/06
note

「三が日もほとんど部屋にいました。外出するのは食べ物の調達だけでしたね。ハウスにいる他の住人たちも同じじゃないですかね。コインランドリーや共用のリビングにはいつも見る顔が揃っていましたから。帰省したり、親、兄弟姉妹に会いに行ったりするような人はいませんよ。そういう普通の人だったらこんな脱法ハウスみたいなところで寝起きしていませんからね」

 年賀状は1枚も来なかったし、1枚も書いていない。スマホにあけましておめでとうのメッセージもなかった。

「夜にリビングのテレビでニュースを観るのですが、デパートの高額福袋がどうだとか、帰省して久しぶりの再会を喜び合う家族、海外旅行から帰国した人たちのことを流していたけど、俺とは人種が違うと拗ねちゃいましたね」

ADVERTISEMENT

 お餅は食べていないし、おせち料理も食べなかった。訪ねる人も訪ねてくれる人もいない。つまらなくて寂しい正月だった。

「とにかく、ここから出ていくことを最優先させないと」

「新年は5日から仕事が入ってきて、今のところは順調です。だけど1日も早く現状から脱出したいので就職活動というか、仕事探しに力を入れています。だけど厳しいですね。2つ隣の駅の近くにたい焼き屋が出店してきてアルバイトを募集していたから面接してもらったのですが、期待に反してお断りだった」

 食べ物商売だから清潔感が大事と思い、面接2日前に散髪し、当日は手持ちの服でいちばん上質のものを身に着け臨んだが、いい反応はなかった。

「アルバイトでも若い女性の方がいいんじゃないですか。そんな口振りでしたよ」

 20歳ぐらいの女子大生と20代後半の日雇い労働者の自分を比べられたら勝ち目はない。悔しいけど仕方ないと思う。

「ほぼ毎月5、6日入ってくる業務用クリーニング工場の職長さんに、ここで雇ってくれないですかね? と尋ねたんですが、直接人を採ることはないと言われました。本当に憂鬱です」

 求人情報誌は前より厚みが増してきたが、これはという求人は少ない。ビル清掃、食品スーパーの短時間パートや倉庫内作業の派遣は多い。テレアポ、データ処理、事務機器操作などは女性限定。仕事を選ぶのは難しい。

「パチンコ屋はどうかなあって思案しているんですよね。求人情報誌に載っていたのですが準社員で時給1450円、土日祝日の勤務は100円増で1550円だそうです。社会保険にも加入するっていうことでした」

 月収例として紹介されていた金額は4勤1休で勤務した場合で28万3200円。

 他に食事補助と住宅手当もあるということだった。

「この条件は破格だと思います。パチンコ屋は風俗業だから抵抗がないわけじゃないけど、もう製造業派遣は嫌です」

 危ない作業をさせられて指を潰したり火傷を負ったりした人を何人も見ている。

 そのくせ雇用の調整弁でいつ不要と言われるか分からない。

「とにかく、ここから出ていくことを最優先させないと」

 雨露はしのげるが屋根付きのホームレスみたいなもの。早くこの部屋から抜け出して、まともな生活を送りたい。

「布団を敷く広さがない」押し入れも窓もない…派遣切りに遭った男性(28)が仕方なく続ける、家賃4万2000円の“脱法ハウス”暮らし

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー