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 次男にとっては初めての、母のいない夜についてもう少し。

 いつもは妻が大きなベッドで次男と一緒に寝ています。妻が入院中は、私が妻のポジションに入れ替わって次男と一緒に寝ようかとも思いましたが、お母ちゃんの代わりはそう簡単にできるものでもないし、なんか、拒絶されて大泣きされそうな気もします。

 ええい、ひょっとしたら都合よくなにかしらの成長のきっかけになるかもしれないと、寝かしつけたあとは私はいつも通り別の部屋で寝ました。寝室に子どもたちだけを寝かせるというのは、大げさかもしれませんが、私なりの小さな、とても小さな決意のようなものでもありました。

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 そんな父の思いを知ってか知らずか、次男は夜中に二度ほどむくりと起き上がって、半ば寝ぼけたまま「ママ!」と呼びはしましたが、背中をトントンとさすると、疲れが勝ったのか、ぱたりと寝ました。恐れていたほどの大騒ぎはなく、ママのいない最初の夜は過ぎていきました。

ママのいない朝

 朝。目覚めたら次は朝ご飯です。実は、次男が乳児のころに、授乳や夜泣きの対応で妻が極度の睡眠不足状態になることがしばしばあったので、そのころからときどきではありますが、朝ご飯を私がつくるようになりました。

 思えば私が初めて朝ご飯をつくったのは、妻が、起こすのも申し訳ないほどに疲れ切って深く眠っていた朝でした。いつもの時間になっても妻が起きてこない。でも、泥のように眠る妻に「時間だよ。起きて、ご飯つくって」とはどうしても言えず、大根を切るだけで肩がバリバリに凝るキッチン初心者ですが、見よう見まねでばたばたとご飯を炊き、みそ汁をつくってみたのでした。

 フラフラと起き上がってきた妻は食卓を見て、ものすごく悔しそうに「違うねん! それだけは、私、がんばりたいのに!」とぽろぽろ涙を流しました。結婚当初からキッチンは自分の居場所とがんばっていた妻は、悔しさと情けなさと自己嫌悪が湧き上がってきて泣いてしまった、とあとで言っていました。「増えるワカメ」がどれくらい増えるのかも知らず、ワカメだらけのみそ汁をつくった私と、それを泣きながら食べる妻。そんなことがあったのでした。

 その後はキッチンに私が入ることを妻もなんとなく受け入れてくれました。慣れというのはすごいものです。私もある程度の経験も積み、ワンパターンなものでよければ、朝ご飯をつくること自体はなんとかできるようになりました。