『ゆきゆきて、神軍』(87)の原一男監督が新作ドキュメンタリー映画『ニッポン国VS泉南石綿(いしわた)村』(3月10日公開)を完成させた。アスベストによる健康被害を受けた大阪泉南地区の元工場労働者や近隣住民たちの姿、そして彼らが起こした国家賠償請求訴訟のゆくえを追っている。
「テレビ局から持ちかけられた企画でしたが、短い放送時間のなかでまとめるのは私には不可能と判断し、自主制作映画として再出発しました」
最終的に取材期間は8年半に及び、その間にアスベスト患者たちは次々とこの世を去った。過去の作品とは違い、ごく普通の市民を撮ることには葛藤もあったという。
「彼らは国家に対して反逆の意志よりも畏れ多いという感覚をもつ生活者です。それを撮って面白い映画になるだろうか、という迷いがありました。映画のなかにも『なぜもっと怒らないのか』という私の気持ちがつい表に出てしまった場面があります」
患者たちと弁護団、さらには厚労省の役人など人々の感情のずれが顕在化するスリリングな瞬間は、原監督作品ならではの見どころだろう。
「日本人は定住民族ですが、泉南の住民は貧困によってこの地へ流れてきた人たちで、被支配層の根っこの部分を形成している。私も山口県の炭鉱育ちで、故郷という概念がありません。撮影しながらそのことに気づき、映画のテーマはつねに自分の出自と関係あるのだと再確認しました」
新たなテーマを見出した原監督は、すでに次回作の製作を進めている。
『ニッポン国VS泉南石綿(いしわた)村』
3月10日公開
http://docudocu.jp/ishiwata/