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刑務所の「老老介護」

 高齢化が進んでいるのは少年院だけではない。長期刑の受刑者が多いところには、収容者が老人ばかりで、元気な年寄りが病気の年寄りを介護するのが主たる「刑務作業」になっているという。老老介護は刑務所内でも珍しくない。

 さて、俺自身のことに話を戻せば、刑務所といえば「寒い」という印象が強烈に脳裏に焼き付いている。

 最初に佐賀少年刑務所に入れられる前、刑が確定するまでの3ヵ月あまりを過ごした岡山刑務所内の拘置施設もとにかく寒かった。

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 よく知られていないが、裁判で刑が確定するまでの時期に入れられるのは、拘置所と言って刑務所とは別の施設である。拘置所にいる間は「推定無罪」の原則に従って、収容者は「善良なる市民」という扱いを受けることになっている。

 いわゆる囚人ではないから、自分で好きなものを拘置所内の売店で買って食べることもできるし、手紙などのやりとりも自由に行なえる(刑務所だと、更生レベルによって手紙を書いていいのは「月に何回まで」という制限がある)。もちろん「作業」なんていうのもない。

 だが「推定無罪」だからと言って、日本の拘置所は諸外国に比べて制限が多い。電話なんてかけられないし、テレビが房の中にあるわけでもない。夜中まで起きていていいというものでもない。

 さらに加えて2007年まで、日本では未決囚も既決囚も同じ「監獄法」によって扱いが定まっていた。この「監獄法」はその名からも分かるように戦前から続く法律で、なんと施行されたのは明治41年、1908年という時代錯誤のものだった。つまり100年経ってようやく改正されたわけだ。

 俺が佐賀少年刑務所に入れられたのはもちろんこの監獄法の時代だから、拘置所も人権など「あってなきがごとく」の状態だった。

 洗濯は各自が運動の時間に行なうのだが、洗濯機があるわけではない。舎房の外にある水道で洗濯石鹸を使っての手洗いである。牟佐(岡山拘置所の所在地)の冬は厳しく、水道管が凍って水が出ない日もあった。なんとか水が出たとしても、その尋常でないまでの冷たい水で洗わなくてはならない。収容者の中には、しもやけやあかぎれで両手のひらから血を流している者もいたが、そんな状態でも自分のものは自分で洗わされるのだ。

 とてももうすぐ21世紀になる日本の話とは思えなかった。