ショートカットがトレードマークという女優は多い。夏帆はそのひとりである。ただし、彼女はデビューしてから10年ほどはロングヘアで、それをばっさり切ってショートにしたのは、23歳のときだった。折しも直後には、出演した映画『海街diary』(2015年)がカンヌ国際映画祭に出品され、彼女はベリーショートになった姿でレッドカーペットを歩いた。

《切ったときはすごくさっぱりして、軽やかになった、あのときの感覚は今も覚えています》と彼女はのちに語っている(『ダ・ヴィンチ』2022年6月号)。髪を短くしたことは演じる役にも影響したらしい。ロングヘアのときはどちらかといえば清楚な役を演じることが多かった。それがショートにした翌年、2016年に公開された映画『ピンクとグレー』では、繊細で破滅的な役どころを演じ、“夏帆の新境地”とも評された。その後も、髪が長かったころには演じなかったような役に次々と起用される。

夏帆 ©時事通信社

若手女優の登竜門

 そもそも夏帆が芸能界入りしたのは、12歳のときにスカウトされたのがきっかけだった。中学に入学した2004年、「三井のリハウス」のCMでデビューする。同CMでは代々新人女優が起用されてきたが、この年、初主演したドラマ『ケータイ刑事 銭形零』も、若手女優の登竜門的なシリーズの一作であった。その翌年より放送されたローティーン向けの教育番組『ガチャガチャポン!』には、当時高校生だった多部未華子の妹役で出演している。

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 さらに2007年には主演映画『天然コケッコー』で天真爛漫な中学生を演じ、高い評価を受けた。その後も、ドラマや映画で同年代の少女を演じる青春ものへの出演があいつぐ。筆者のなかでは当時のイメージが残っているので、彼女がきょう6月30日に誕生日を迎え、32歳となったと知ってちょっと驚いた。

『天然コケッコー』

 デビュー5年目ぐらいのインタビューでは《(女優という仕事が)夢中になれることなのか、向いているのかどうか、まだわからない。わからないだらけ。でも、なんかいいなあって思える瞬間がある。それががんばろうって思える原動力になっているんでしょうね》と語っていた(『ダ・ヴィンチ』2008年4月号)。この発言からは、彼女が10代の時点ではまだ、今後も俳優としてずっとやっていくと固く決めていたわけでも、そう思えるだけの自信もなかったことがうかがえる。

 実際、彼女は20代前半になって、役者としてこの先のことを考えたとき、すごく不安になったという。のちに当時を振り返って、次のように語っている。