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《というのも、10代前半からありがたいことにとても順調にこの仕事をしてきて、仕事があるのが当たり前だと思っていたんですね。(中略)でもある時、求められないとこの仕事は続けられないんだ、と当たり前のことですが、気づいてしまった。その時、今の自分が特別秀でた何かを持っているわけではない、この先もう求められないかもしれない…と悩みました。(中略)この仕事ができないって考えた時にすごく落ち込んだ自分にびっくりしたんです。それまでは役者なんていつ辞めてもいいやなんて思っていたのに、いつの間にか変わっている自分がいて》(『anan』2019年3月6日号)

「望んで選んだ道を進んでいるはずなのに」

 時期的には先述のとおり髪を短くし、『海街diary』に出演した時期と重なる。20代前半のこのころは、《望んで選んだ道を進んでいるはずなのに『自分はこの先、どこに向かうのかな?』とどこか不安があって、同時に理想に追いついていない自分が許せなくて。ものすごく自分が嫌いで、苦しかった》時期であったとも語っている(『Hanako』2022年5月号)。

(左から)夏帆、綾瀬はるか、広瀬すず、長澤まさみ ©時事通信社

『海街diary』で演じたのは4姉妹の三女。クランクアップに際しては次女役の長澤まさみが姉妹それぞれに手紙を書いて渡してくれた。長澤が当時の夏帆の状況に気づいていたかどうかはわかないが、彼女はその手紙を読んで《私は、こういう言葉を誰かに言ってほしかったんだなって、少し心が軽くなった》(同上)。その後も、現在にいたるまで綾瀬はるかと広瀬すずを含む4姉妹どうし交流を続けるなかで、長澤からは《仕事がつらいな、やめたいなと思うときに、ポンっと印象的な言葉が》届き、救われてきたという(同上)。

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『海街diary』の4姉妹のうち、ほかの3人がそれぞれ“訳あり”な立場にあるなか、夏帆だけは現代的な普通の女の子という役どころであった。本人いわく《姉妹の中で緩和剤というか、私がいることでより日常的な雰囲気になったらいいなと思ってやってました》(『週刊朝日』2020年2月28日号)。

『海街diary』

 常日頃より自分が普通であることを、彼女は強く自覚しているようだ。そのうえで俳優として気をつけていることを次のように語っている。

《芝居に日常生活が出るって、よく言われますけど、ほんとうに私は普通なので。いろんなことに対して、もうちょっと敏感でいたいなとは思いますね。鈍感にならず、ちいさなことも、ちゃんと感じられる人間でいたい。そういうことがお芝居にも出せたらなって。……うまく説明のできないことって、いっぱいあるじゃないですか? 人には話さないし、だけど感じること。淋しさとか、切なさとか。そういうものをちゃんと出せたらいいなって思っています。難しいんですけどね》(『キネマ旬報』2018年10月下旬号)