話題のドラマに次々と出演
バカリズム脚本のドラマ『架空OL日記』(2017年)、『ブラッシュアップライフ』(2023年)で夏帆が演じたのは、まさに等身大の普通の女性であった。『ブラッシュアップライフ』では主人公(安藤サクラ)の親友役だったが、役づくりは全然しなかったという。それでも、まったく素の自分というわけでもなく、演じているうちに自然とキャラクターができあがってくるらしい(「Real Sound」2023年2月5日配信)。
もともとバカリズムの脚本は『架空OL日記』も含め、台詞のなかにあいづちが入っていたりと、出演者がアドリブで会話しているかのように書かれている。それが、日頃より演技のなかで日常的な雰囲気を出せるよう努めてきた夏帆にうまくハマったのだろう。
一方で、入念に準備をしてのぞんだ作品も少なくない。昨年話題を呼んだドラマ『silent』では、耳の聞こえない女性の役を、手話も身につけたうえで熱演した。
また、一昨年放送の主演ドラマ『星とレモンの部屋』は、32歳にして引きこもりの娘が母親の死に遭遇し、うろたえながらもその状況に対応しようとするというこれまた難しい作品であった。出演にあたっては、引きこもり当事者と話をする機会をもらうと、その人が他人よりも繊細なために生きづらさを感じていることを知り、自分の役を通して当事者の真摯さを伝えたいと思ったという(『ステラ』2021年3月19日号)。
ただ、どんなに難しい役どころであっても、見ている者にリアリティを感じさせたり共感を抱かせたりするには、やはりベースとして普通っぽさを持っていることは必要なのではないか。夏帆の演じる役の幅広さも、それによって裏づけられているような気がする。
映画『Red』で見せた「官能的な顔」
2020年公開の主演映画『Red』で彼女の演じた女性は、家庭では良い妻にして良い母親であることを求められる一方で、不倫相手(妻夫木聡)とは官能的な顔を現す。かと思えば、同僚の男性(柄本佑)と意気投合して、夜中に一緒に自転車を乗り回すうち生き生きとした顔を見せる。女性が見れば、そのどれもが「私だ」と思わせるものではなかったか。