「3歳くらいの頃には、母から『官僚以外は職業じゃない』みたいなことを言い聞かされていました。そのためには中学受験をして、そこから東大へ行き、国家試験を通らなければならない、というのが口癖でした。
母には俺にそれを実現させるための脅し文句がありました。東大に行けなければ、ホームレスになって凍え死ぬしかなくなるって言われていたんです。母は本気でそう思っていたと思います。また、いとこの一人がひきこもりだったんですが、毎日のようにその人を例に挙げて、『勉強しなきゃ、あんなクズになるよ。あの子のせいで親族みんなが恥をかいているんだ』『あなたがあんなふうになったら、私はあなたを殺して自殺する』と言っていました。
成績が悪くて暴力をふるわれることもしょっちゅうでした。母はただ叩くんじゃなくて、こう言うんです。
『あなたをホームレスにしたくないの。なんでその気持ちをわかってくれないの! あなたをホームレスにするくらいなら、あなたを殺して私も死ぬ!』
今から考えればあまりに極端な話なんですが、その時は真剣に僕をホームレスにさせないために言ってくれているんだと思っていました」
教育虐待をする親は「オール・オア・ナッシング」
教育虐待をする典型的な親は、あらゆることを「オール・オア・ナッシング」、つまり百かゼロかで考える傾向にある。
官僚になるかホームレスになるか、医者になるかニートになるか、東大に行くか中卒なのか……。大切なのは子供が自発的に夢を抱いて、そこに至るプロセスを思い描き、挑戦と失敗をくり返しながら進んでいくことなのに、彼らは初めからゴールを1つに絞って、子供にそれを強要する。
そのため、子供たちは選択肢を与えられず、親が決めたゴールに向かって走らされている。その間もずっと親からの脅しを受けるため、子供たちは敷かれたレールから外れることに大きな不安を覚える。志望校に合格しなければ、人生が終わってしまうという恐怖心を植えつけられるのだ。
紙幅の都合上、本書ではあまり触れないが、スポーツや芸術の分野で行われる教育虐待においても、同じような洗脳が伴う。かつて私が刑務所で話を聞いた元暴力団の男性がいる。彼の父親はアマチュアレスリングの選手だったそうだ。
父親は、自分が果たせなかった世界チャンピオンになるという夢を子供に押し付けた。そして夜明け前からトレーニングを課し、練習は最低でも1日6時間、時には学校を休ませてまで行った。鉄拳制裁も辞さず、男性は毎日のように怒鳴られ、殴られ、時には首を絞められて意識を失っていたという。父親の眼中には息子を世界チャンピオンにするということしかなかったのだろう。
男性は次のように語っていた。