“高校1年のある日、少年は父親の監視のもとで数学の問題を解いた。難しかったのだろう、手間取ってなかなか解けなかった。すると、父親はシャープペンシルを取り上げ、あろうことか息子の頭頂部に突き立てたという。”
時には、わが子を身体的に傷つけるケースも…エスカレートする「教育虐待」の実情を、ノンフィクション作家・石井光太さんの『教育虐待 子供を壊す「教育熱心」な親たち』より一部抜粋して紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)
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力で子供を支配する
教育虐待をする親の基本姿勢は、子供の支配である。自分こそが正しいと信じ込み、意のままに子供を操って理想のゴールへ導こうとする。
このような親は、子供に関するあらゆることを徹底的に管理しなければ気がすまない。受験勉強なら学習塾や進学先についてだけでなく、学習や睡眠の時間、それに友人関係などの細部にまで口出しし、それから少しでも外れると激怒する。
教育虐待でよく見られるのが、子供に対して異常なほどの長時間学習を強要することである。小学生のうちから毎日夜中の零時過ぎまで勉強机に縛りつけて問題を解かせる。あるいは、学習塾だけでなく家庭教師や公文式などを並行してやらせることもある。
私の知っている事例だと、平日は午前中で学校を早退するよう言われ、昼過ぎから午前零時過ぎまで12時間、休日に至っては平均15時間勉強させられていたという小学生がいた。これは明らかに子供の健康をも揺るがす行為だが、進学塾の講師に聞くと決して稀有な例ではないそうだ。
では、受験に必要な勉強時間とはどれくらいなのだろう。
Z会のホームページによれば、中学受験に必要な勉強時間は、小学4~5年生が一日平均1~3時間、6年生は3~5時間となっている。10~12歳くらいの子供が集中できて、かつ効率よく学習が身につく時間としては、難関校の受験者でもこれくらいが妥当なのかもしれない。
ちなみに近年の研究では、人間の集中力がつづく時間は思いのほか短いとされている。大人であっても50~60分、子供ならせいぜい45分、しかも本当の意味で集中できるのは15分が限度という意見が大半だ。
大脳生理学が専門の池谷裕二(東京大学教授)がベネッセコーポレーションの協力で行った「勉強時間による学習の定着・集中力に関する実証実験」では、子供に60分連続で勉強をさせるより、15分×3回の勉強を7.5分の休憩を2回はさんで45分勉強をさせた方が、定着率が高いことが明らかになっている。
子供のタイプにもよるだろうが、ここから言えるのは、やみくもに長くやるだけの勉強は、短時間集中して行うものより明らかに効率が悪いということだ。
だが、教育虐待をする親は、逆の発想をする。なぜか。