「3歳くらいの頃には、母から『官僚以外は職業じゃない』みたいなことを言い聞かされていました。そのためには中学受験をして、そこから東大へ行き、国家試験を通らなければならない、というのが口癖でした。」

 高い学歴を信奉し、その価値観を子どもにまで押し付ける「教育虐待」のリアルをお届け。ノンフィクション作家・石井光太さんの『教育虐待 子供を壊す「教育熱心」な親たち』より一部抜粋して紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)

「あの人は東大卒だから人格も何もかもすばらしい」「学閥に入らなければ出世できない」と本気で考える教育虐待家庭とはいったい? ©getty

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親による洗脳支配

 家庭の中で、親はどのように教育虐待を行っているのか。

 教育虐待を正確に目撃し、記憶しているのは、被害者である子供自身だ。子供部屋で起きていることについては、彼ら以上の証言者は存在しない。

 だが、実際には彼らは幼い上に、親の支配下にあるため、なかなか自ら口を開くことはない。自身の経験を客観視して言葉にできるようになるのは、大抵は成人してからだ。タレントの小島慶子さんや評論家の古谷経衡さんといった著名人のように30代、40代になってようやく重い口を開く人も珍しくない。

 幸か不幸か、私はこれまでの取材経験の中で、多くの成人した教育虐待サバイバーから体験談を聞いてきた。ここでは、それらの生の言葉を紹介しつつ、家庭という密室で起きているリアルを紹介したい。

 教育虐待において、ほぼすべての親が共通して行っているのが“洗脳”だ。現在の日本では、就職においても結婚においても、学歴の持つ威光はだいぶ衰えてきているといえる。一流大学を卒業しても、その人に実力や何か光るものがなければ社会で一定以上の収入を得たり、家庭を築いたりすることは難しい。

 にもかかわらず、親は学歴に現実以上の大きな価値を見いだし、あの手この手で子供に対してその重要性を説く。「早慶大以上の大学に行かなければ安定した会社に就職できない」「あの人は東大卒だから人格も何もかもすばらしい」「学閥に入らなければ出世できない」といったことを何かにつけて口にする。

 子供たちは物心つく前からくり返しそう言われるので、無意識のうちに感化されがちだ。世の中は学歴がすべてなのだと思い込み、親から学習塾へ行けと言われれば行き、中学受験をしろと言われればし、東京大学を目指せと言われれば目指す。知らず知らずのうちに、親の偏った考えに染まっている。

 とはいえ、大なり小なり、どの家庭でも親の思い込みが子供の考え方に影響を及ぼすことはあるだろう。教育虐待が行われる家庭に見られるのは、親の価値観のゆがみがあまりに極端であることだ。

 かつて薬物依存の取材をしていた時に出会った、教育虐待サバイバーの男性がいる。彼は東大卒のキャリア官僚の家庭に生まれ育った。父親は仕事ばかりで家のことはまったく関与せず、専業主婦の母親が子育ての主導権を握っていたそうだ。そしてこの母親が教育にただならぬ熱を上げていた。

 男性はこう語っていた。