AIやIoTが社会を変動させることが分かっても、古い体質の企業では守旧派が権益を握っている。とはいえ、そのままでは会社が潰れる運命は避けられない。企業再生の第一人者であり、産業界全体から見た人工知能に精通する冨山和彦さんに、これからを生き抜く心構えを一問一答式で訊く、全5回シリーズの最終回(#4「AI時代に既得権益層を打ち破るには」より続く)。

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『AI経営で会社は甦る』(冨山和彦 著
『AI経営で会社は甦る』(冨山和彦 著

Q 個人事業主、地域の商店やサービス業にAI活用のメリットはありますか。

A お金もそんなにかからないし、メリットしかありません。

 個人事業主や地域におけるAI活用というのは、もしかしたら一番面白いテーマかもしれません。地方の商店主や、私が経営しているような東北のバス会社(みちのりホールディングス)とかは、地域にべったり貼り付いてやっているので、もともと基盤はある。そのうえで、既に世の中に存在するテクノロジーにフリーライドできるわけですから、無駄な資本を必要としないわけです。お金もそんなにかからない。メリットしかありませんね。これをどう使うかは、その個人商店主や商店街の才覚次第だと思います。個人事業主の立場で、これぞというイノベーションを起こしてくれることを期待しています。

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冨山和彦氏 ©平松市聖/文藝春秋

 いままでの20世紀型のモデルは、企業体として巨大になることを自己目的化していました。一方で、みちのりホールディングスのような地方のバス会社には、帝国主義的な成長意欲は、まったくありません。なぜなら、ローカル型の産業の意義は、そこにはないからです。みちのりホールディングスは東北エリアでのシェアが非常に高いのですが、だからといって東北のバス会社が、東京やアメリカに進出しても、意味はないんです。なぜなら、もともと地域への密着度ですべて決まってしまうビジネスモデルゆえ、東北地方のオペレーションの競争力にはつながらないからです。

©iStock.com

 医療・介護含め多くの産業領域において、AI革命が起きてくるとすると、同じようなことが起きます。20世紀的な膨張モデルから、21世紀的な質的に成長するモデルへと変わるのです。地域に根づいて、地域のために本当に役に立っていて、地域のお客さまから愛されて、場合によっては地域の外からのお客さまにも愛されて。そのなかで高賃金かつ安定的な雇用が生み出せるようなビジネスモデルを商店街の世界で広げていく。これはかなりおしゃれでかっこいいことだと思うんですよね。われわれはグローバル・プラットフォームを目指します、とかいうよりも、遥かにおしゃれですよね。