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老いは着実に忍び寄っている――それでも続ける理由

――10年ぐらい前から、「還暦までは」と言っているのを半ば冗談だと思って聞いてました。でも、身体はあらゆる検査をしても数値的にまったく問題なし。関節も若い選手と同等のコンディションを維持している。もはや56歳で本当に還暦が現実になってきましたね。

 いや、還暦とかは本当に考えてなかった。実際、もう50歳のときとも全然身体は違います。一日一日で変わるし、明日、1週間後、どうなっているんだろうといつも思っている。だから、ちょっとでも痛みがあると怖い。ケガにつながるんじゃないかという恐怖です。ケガ自体が治る時間は、若い選手と変わらないと思うんです。でも、若いときと違ってリハビリで一気に戻せないんですね。若いときなら右肩上がりで治っていくんだけど、僕がケガをしたら、上げて休んで、上げて休んで様子見てというリハビリをやらざるを得ないから、若い選手が2週間で復帰できるところをたとえば4週間とかかかっちゃう。老いは、もう誤魔化しようがないぐらい着実に忍び寄ってきているわけです。

 

 それでも続けるのは、やっぱりサッカーが楽しいから。練習ゲームでも紅白戦でも、自分が思っていたようなゴールがあげられたりすると、ああまだこういうのができるんだ、本番でもこれぐらい強いキックを左足で蹴れたら最高だな、という喜びがある。ポルトガルという攻撃重視のスタイルの中で、ワンツーでとれたり、3点とか入れたりすると、本当に試合に出たいという気持ちも強くなってくるんです。

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 たったいまは、とにかく、リーグ戦に万全の準備をして臨むということだけです。結果を楽しみにしていてください。

現役でありつづけることだけがカズの「解」

 チームがカズに求めるのは90分走れるプレーヤーというよりは、スポンサー獲得のためやパブリシティー的な要素のほうが強いのは明らかだ。しかし、カズにとっては、そんなことは関係ない。それはあくまでも全力でサッカーに向かってきた結果、付随してきたもので、自分が万全の体調で1分1秒でも長くピッチに立ち、現役でありつづけることだけが「解」なのだ。

 8月、カズはいま一度ポルトガルのピッチを駆け、ゴールをめざすことになる。56歳の孤高のキング。「真っ白な灰になるまで」がいよいよリアルになってきた。彼の地で燃え尽きんとする姿を目に焼き付けておきたい。

撮影/ヤナガワゴーッ!