信じられなかった内山壮真の大ファインプレー
打球が飛んだ瞬間、「あぁ、ダメだ……」と思った。そのまま白球の行方を追っていると、レフトの内山壮真が視界に飛び込んでくる。その瞬間、「あっ、危ない……」と思った。そしてその1秒後、内山はフェンスに体当たりして転倒する。……しかし、その直後に信じられない光景を目にすることになる。
何事もなかったかのようにすぐに立ち上がり、内野手に返球。内山は見事に捕球していたのだ。犠牲フライで1点は失ったものの、1塁走者を得点圏に進めることはなかった。ベンチからトレーナーが飛び出してくる。それでも内山は頭上で大きな「○」を作り、それを制した。平然と、そして淡々としていたが、一連のプレーは試合の行方を左右するビッグプレーとなった。この日の試合後、髙津臣吾監督は次のようなコメントを残している。
「ヤバいね。ビックリした。ああいうセンスを持っている。技術なんだろうけど、何をやらせてもすごいね」
7月2日、神宮球場で行われた対広島東洋カープ12回戦、4対1で迎えた9回表の出来事だった。8回から守備固めとしてレフトに起用されていた内山の本職は、言うまでもなく「捕手」である。本格的に「外野手」としての練習を始めたのは今春のキャンプからだ。昨年の秋、髙津監督にインタビューした際に、「2023年シーズンのレフト」について、こんなコメントを発している。
「ちょっと温めているアイディア」こそ……
「基本的には青木(宣親)や山崎(晃大朗)で、と思いますが、その他のアイディアもあります。守備力を求めるのか、足を求めるのか、打つ方を求めるのか? 考えなければいけないことはいくつもあるし、打順との兼ね合いもあるので、いろいろ考えてはいます。まだ言えないけど、ちょっと温めているアイディアもあるんです(笑)」
この「ちょっと温めているアイディア」こそ、内山の外野起用だった。球団史上初となるリーグ3連覇を目指して臨んだ今シーズン。塩見泰隆が早々に戦線離脱、2年目の丸山和郁も負傷し、一気に外野陣が手薄となった。当初は「内山に少しでも出場機会を与えるために」という思惑でスタートしたプランだったが、結果的に貴重な戦力の一人として、「内山外野手」は、現在のヤクルトに欠かせない存在となっている。
石川雅規が語る「内山壮真評」とは?
昨年末、21年、22年シーズンの石川雅規に密着した『基本は、真っ直ぐ―― 石川雅規42歳の肖像』(ベースボール・マガジン社)という本を出版した。この本の中で石川は、「年の差23歳バッテリー」を組む内山に対してこんな言葉を残している。
「昨年(21年)はファームで、今年(22年)もオープン戦でバッテリーを組みましたけど、彼はすごく記憶力がいいんです。若いけれども、きちんと自分なりのプランを持っています。もちろん、衣川(篤史)バッテリーコーチの的確な助言もあるんですけど、その中で面白いリードをしますね」
当時プロ21年目の大ベテランが語る「面白いリード」とは何か?
「追い込んでから、“いきなり、ここでカーブを要求してくるのか”と感じたことはありますね。緩いカーブというのは、手詰まりになったときに投げることが多いんですけど、序盤でサインが出たこともありました。自分にはない発想のリードはやっぱり面白いですね」
そして、髙津監督が「親子キャッチボール」と称する若き女房役について、石川はこんな分析をしている。