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「早く“毒リンゴ”をはき出したい」中日・岡林勇希がホームランという“禁断の果実”の影響を克服するまで

文春野球コラム ペナントレース2023

2023/07/25
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「たかし」から学んだ練習方法

 克服できたのは、日々のルーティンに徹したから。岡林は今年、練習から入念すぎるほどのティー打撃を行い試合の準備をしている。昨年は多くて3、4種類だったティーのバリエーションを、今年は11種類まで増やした。

「一つ一つのバッティングの動作、体の使い方を確認するのが目的。立浪(和義)監督や森野(将彦打撃)コーチに聞きながら、自分でもよく考えて種類を増やしている。今年は同じことをやり続けたい。しっかりとした準備から打撃練習、ゲームに入っていく。それが意図です」

 フリー打撃後は、バッティングゲージ横に置かれたタブレット端末で打撃のフォームを必ずチェック。森野打撃コーチと意見をすりあわせて、ミスマッチを防いでいくところまでが日課だ。さらにベンチ前で素振りを数回行って、一連の打撃練習を終える。

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「素振りの形が一番いい。打撃練習で動く球を打ってから、その映像を見て(感覚を)合わせる。それを体に染みこませる」

 名だたる強者たちを抑え、両リーグ最速で100安打に到達した。劇的に何かを変えるのではなく、ごくわずかな改良を加えながら完成形を目指すのが、岡林勇希のスタイル。若き才能を開花させた立浪監督も「あいつは本当によく練習する。このチームで一番練習するんじゃないですか? 体力もついてきた。真っすぐには強いので、あとは変化球が打てるようになれば、そのうち(打率)3割2、3分は打つようになるでしょう」と成長曲線を思い描く。

 よき模範も近くにいる。DeNAから現役ドラフトで移籍し、大ブレイク中の細川成也だ。立浪監督ら首脳陣が、演歌歌手の細川たかしになぞらえ「たかし」と呼ぶことから、岡林も先輩を容赦なく「たかし」と呼んでいる。

 何より岡林が驚いたのはその練習量。遠征先の試合後でも、宿舎のトレーニング室でブンブンと音がし、どんなときも細川の姿がある。岡林は「細川さんから、翌日の先発投手をイメージしながら素振りすると聞いた。その日の復習と次の日の予習をしている。すごく大事なことだと思ってやってみようと思った」とすぐに細川の練習方法を取り入れた。

 ある遠征先では、深夜1時に食事から戻り、その後宿舎で2時間ぶっ通しで素振りしたこともあった。2月のキャンプ中には練習試合の外野守備で交錯し負傷。3月の侍ジャパンとの合同練習ではダルビッシュ有の剛速球が右足を襲った。それでも、何食わぬ顔で2年連続開幕スタメンを勝ち取り、グラウンドで暴れ回っている。体力面、精神面の強さの根底には、野球に対する貪欲さが常にある。

 7月7日に、七夕にちなんで「短冊」を渡して願いごとを書いてもらったが、なぜか「頑張ります」という意気込みのみ。僕を含む周囲が「???」マークに包まれていると、10分後くらいに小走りで走ってきて「あっ、今日は七夕だから短冊なのか!」。何だと思って書いたのか……。

 もはや冗談か本気か全く分からないリアクションで迫ってくる21歳。今オフから解禁される愛車候補のことを考えているのが至福のときで「この車どう?」とスマホの画面を見せてくる瞬間が、おそらく一番イキイキしている。広島の名所・宮島のことを「宮古島」と言い間違えたり、赤坂見附を「あかさかみつき」とお上品に勘違いする天然っぽさはばっちり残しながら、若き才能は果てしなく伸びていく。

 今季も残り60試合を切った。開幕から全試合フルイニング出場しているのは、岡林と阪神・中野拓夢の2人だけとなった。

「チームの主力として認められるには最低でも3年は試合に出続けたい。無事是名馬。まずはケガせず駆け抜けたい」。バヤシの成長スピードに、今年もワクワクが止まらない。

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