神宮のバックネット裏にある記者席から見上げた放物線は、打った瞬間スタンドイン確信の爽快な一発だった。5月12日のヤクルト戦(神宮)。中日・岡林勇希が、ヤクルト・高梨裕稔の直球を振り抜き、プロ入り初となる2ランを右翼席に運んだ。

“珍しく”ダイヤモンドを優雅に一周。試合後は、やや興奮気味に「びっくりした。まさか自分がホームランを打てると思ってなかった。去年あれだけ打席数をもらって打てていなかったので、すごくうれしい」と振り返った。

プロ初本塁打を放った岡林勇希 ©時事通信社

 手元に戻ったメモリアルの一球は、大切な家族が住む三重・松阪の実家へ。10年前の同じ日に初本塁打を放った加藤翔平からは「奇跡ですね。僕は2本目を打つまで1年かかったので早く2本目見るの楽しみにしています。ちなみに、僕の2本目はサヨナラホームランでしたけど」とお祝いされた。

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ホームランで起こった“異変”

 通算818打席目でようやく刻んだ「1」。野球でもっとも華があるプレーは、一振りで試合を動かす本塁打と言っていい。そんな特別な一本だが、岡林にとっては、うれしさと同時に不気味に迫ってくる不安があった。

「バッティング、おかしくならないといいなぁ……って思ってた。あの時、全然状態が良くなくて、悪い時にたまたま一番(ボールが)飛ぶポイントで打って、そのままホームラン。納得できるスイングじゃなかったから」

 不安は的中した。ホームラン直後から1週間、28打数4安打、打率1割4分3厘とさらに苦しんだ。独自の打撃理論と感性を持つ岡林だが、この時期はそれが乱れていた。グラウンドで雑談すると「いっそこのまま、全打席ホームラン狙うしかないね!」と冗談を飛ばして気を紛らわせた。

「早く“毒リンゴ”をはき出したい」。決して長距離砲ではない岡林は、予期せぬホームランを「禁断の果実」に例えた。考えすぎる性格ではないが、どこか気になる。

 それでも、交流戦開幕カードとなった5月31日のソフトバンク戦(ペイペイD)で古川侑利から右中間テラス席へ2号アーチをかっとばすと、交流戦では3位タイの24安打を放つなど一気に復調。「いつの間にかはき出してたわ。良かった~。毒リンゴの味? うーん。おいしくはなかったね(笑)」と振り返ってくれた。