今回は先日引退式を行った北海道日本ハムの金子千尋特命コーチ(以降、金子または金子さん、ネコさん)がオリックスにエースとして在籍していて、私が取材を始めた2015年から2018年を中心に感じたことや経験談を書いてみたいと思う。

©垪和さえ

キャリア1年目、金子に近づく勇気がなかった

 2014年に最終盤まで福岡ソフトバンクホークスと優勝争いを演じて、チームは僅かの差で2位に終わってしまったが、金子は沢村賞を筆頭に最優秀防御率、最多勝と投手タイトルを獲得。国内FAを取得していただけに、私はオフに行われた日米野球を「これを逃したら金子と(伊藤)光のバッテリーが見られないかもしれない。目に焼きつけておこう」と迷わず東京ドームに行った。結果、金子はクリスマスイブ残留宣言をして、チームやファンにクリスマスプレゼントを与えている。

 球団は2014年の結果を受けて、アメリカから中島宏之、日本ハムから小谷野栄一、横浜DeNAからブランコ、広島からバリントンと大型補強に成功したが、最大の補強は金子の残留とまで言われた。

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 期待感しかなかった2015年だったが、オフに行った右肘骨棘の除去手術とリハビリの影響もあり、開幕投手を回避する。私は5月に初登板した辺りから、ベンチ裏で金子さんをたびたび見かけたが、キャリア1年目の私には「お疲れ様です」と言うのが精一杯で、先輩記者からは「金子さんは日にちを間違えなければ大丈夫」と言われていたが、あの独特なオーラに近づく勇気がなかった。

 それは糸井嘉男さんにも言えたことで、私はオリックス在籍中の糸井さんを取材したことがない。この年の金子さんは前年と違って球を操れていないことに苛立ちを感じていたのかもしれない。まさかの7勝止まりに終わっている。

©垪和さえ

「野球ばかりの質問よりいいですよ。またお願いします」

 私が金子さんと話すようになったのは2016年からである。この年に私は『ベースボールサミット』という書籍のオリックス編を製作するにあたり、メインライターを務めさせていただいた。この時の話は次回以降に書きたいと思っているが、春季キャンプで行われたインタビュアーは3人いてその日のスケジュールによって取材対象者が決まるシステムで、私は他と被らない限り、どのインタビューにも同席させてもらった。

 金子さんは先輩ライターが担当。同席した際、名刺を渡すと「どら増田さん! 知ってますよ。ツイッターやられてますよね?」と金子さんが話してくれたのだ。私はここぞとばかりに「なかなかシーズン中は話しかけづらくて。今シーズンはいろいろとお話を聞かせてください」と直訴。金子さんも「どんどん来てください」と言ってくれてとても嬉しかった。

 さらに関係が深くなったのは、仙台の試合が雨天でみんなが屋内練習場にいる中、金子さんはベンチでチューブトレーニングをしていた。こんな機会は滅多にない。私は金子さんがハマってるK-POPの話をしてみた。

 すると、金子さんはベンチに座ってどうしてK-POPが好きになったのか? 今好きなK-POPは誰か?など約30分も話してくれたのだ。金子さんに「素人なんでこんな質問してすみません」と頭を下げると「野球ばかりの質問よりいいですよ。またお願いします」と次に繋がる言葉を使ってくれた。

 横浜に戻ってから私はK-POP主体のオリ熱コラムを書いている。