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 この5日間は「この生活が無理そうだったら、辞めてもいいからね」というスタンスです。申し出があればすぐに小原台を去ることができます。「私は、防衛大学校学生たる名誉と責任を自覚し~」と書かれた宣誓文に署名提出し入校式を迎えるまでは、教官や上級生は優しく、怒られることはありません。

 理由は、入校式を迎えるまでは「防大生」ではなく、あくまでも「防大生候補」という扱いだからです。新入生は、富士サファリパークのバスにいる観光客のように猛獣たちから守られます。

適当な理由で残るユニークな新入生も多数

 新入生は「防大は厳しい」と聞いていたものの、彼らの貧相な想像力を100倍ほど凌駕する現実がそこにはあるため、「あ、やっぱムリ」と悟った新入生が1人、また1人と小原台から下界に戻っていき、お客様期間の5日間で100人ほどがいなくなることは珍しくありません。

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 お客様期間中は、教官も「防大は茨の道だから怖かったら早く帰ろうネ」や「ついていけなくても大丈夫だよ。不安だったらおうちに帰ろうネ」と新入生に伝えることが多く、いつでも帰ることができる雰囲気を出してきます。

 といっても、防大に残る新入生は「国防に燃えている」「熱い心を持っている」というメンバーばかりではありません。「受験勉強がもう面倒くさい」「なんとなく面白そうだから」「ここで辞めたらダサすぎるから残る」という適当な理由で残るユニークな人材も大勢いると思えば、「俺が国防を支える」と言いながら、「理想と違った」とすぐに辞めてしまう新入生さえいます。

 いずれにせよ防大に入校することは修行であり、感覚としては出家に近いです。「自分はもう一般人ではないのだな」と実感し、「さよなら」と娑婆の空気に優しいキスができる人だけが宣誓をして防大生になり、4年間を生き抜くことになります。

お客様期間終了、そして「防大生」になる

 4月5日の入校式で宣誓文を提出すると、新入生は「防大生」として正式に認められ、教官や上級生から厳しい指導を受けるようになります。

©AFLO

 ことあるごとに「お前らは自分の意思で宣誓文を提出したからな! ダラダラするな!」と言われるようになり、まるで紙切れ1枚で悪魔に魂を売ってしまったかのような感覚に陥ります。「宣誓文なんて出さずに、お客様期間中で帰っておけばよかったな」と学生は4年間で数えきれないほど思うのですが、これが防大生活の全ての始まりと言えるでしょう。