週刊文春最新号は、冬季オリンピックの選手を支える市井のひとを伝える記事と、発売前日から話題の女子レスリング・伊調馨のパワハラ告発が好対照となっている。
小平奈緒選手を支える病院の「義」
特集記事「平昌金メダリスト『清貧と報酬』」は、先月25日に閉幕した平昌オリンピックの選手たちの金銭事情を報じる。冬季の競技は金銭面の負担が大きいものが多く、たとえばフィギュアスケートの場合、靴は一足10~20万円、振り付けは1曲100万円程度だと、元五輪選手の渡部絵美は解説する。その渡部も、引退の理由のひとつに金銭面の負担があったという。
今回、スピードスケートで小平奈緒選手が金・銀ふたつのメダルを獲得したが、彼女を支えるのは長野県の相澤病院だ。記事によれば、職員として給料を支払うほか、道具代、遠征費、大会参加費、専属の栄養士の契約料で、年間1500万円(今年度)を負担している。
高須クリニックならともかく、一病院がなぜそこまでと思うところだが、病院の理事長は「困っている小平さんを地元で支えよう」という気持ちで始めたと語る。スポンサー探しが難航するなかで声をかけられ、そうしてくれたことに応えないのは「義に反する」と支援を決めるのであった。「義」とは、利害・利欲にとらわれず、ひとの道に従うことだ。
対して小平選手はそこまでしてくれるのだからと職員として働くことを希望するのだが、理事長はどうせなら徹底的に練習してくれたほうがいいとそれを拒み、また金メダリストになってからもスポンサー契約ではないからと、病院の宣伝塔にする気もない様子。まさに「義」のひとである。
見返りを求めない生き方をする「無私の日本人」
歴史学者の磯田道史は、江戸時代に、作ったカネを藩に貸し付け、その利子を百姓みんなに分ける仕組みを考えた者らについて古文書で読む。そこから『無私の日本人』を書き上げるのだが、その古文書を「やがて忘れ去られるであろう九人のことを書き記さねばと思った一人の僧侶がこつこつと書きためた記録であった。」(注)と評する。
この五輪記事も見返りを求めない生き方をするひとを書く。冬季オリンピックは日頃脚光を浴びにくい競技(だからスポンサー探しがたいへん)に光を照らす大会ともいえようが、それを支える人を書き残す記事であった。