早稲田大学に合格して明治大学へ進学した学生も
このように、「高学歴」というのは単純に語れるものではない。もちろん高学歴とされる大学に進学したいという受験生心理は理解できる。就職活動で問われると言われる「学生時代に力を入れたこと(通称「ガクチカ」)」も、ある一定水準以上の学歴フィルターが前提になっている事情もあるだろう。
しかし、あえて理想を語るなら、受験生やその関係者には偏差値やイメージ“だけ”で大学を選ぶのではなく、近い将来の自分に思いを馳せ、その大学で何をしたいのか、自分の興味関心は一体どんなところにあるのかといったことを冷静に、一歩踏み込んで考えてみてもらいたい。そして、大学に進学した後は偏差値やイメージだけに頼らない人生を歩んでいってほしいものだ。
最後にある事例を紹介したい。4年前、千葉県のとある塾で指導していた生徒にこんな受験生がいた。仮にSとしよう。Sは高3のはじめに偏差値30台の、自他共に認めるいわゆる低学力層でありながら「早稲田に行きたい」と口にしていた。そして、1年間にわたって凄まじい努力を重ね、Sはついに早稲田大学の合格を手に入れた。1年前に掲げた目標を見事に達成したのである。
ただ、Sはこの1年間で学力以外にも大きな変化を遂げていた。受験勉強を続ける中で、自分のやりたいことと出会い、言うなれば自分の軸ができたのだ。その結果、受験を終えたSはずっと目標に掲げていた早稲田大学ではなく、明治大学を進学先に選んだ。周囲からは当然のように早稲田への進学を勧める声が多く聞こえる中、彼は偏差値だけにとらわれない選択をしたのである。
Sのエピソードは現代社会において特殊なケースに感じられるかもしれないが、このような選択をする受験生が存在することを頭の片隅に置きながら、私たちの生きる「学歴社会」を考えていきたいものだ。