大学生の「休学」というと、一般的にはネガティブなイメージで受け止められることが多い。しかし、受験エリートが集まる東京大学において、ここ10年あまりで休学を選択する生徒は約2倍に増えているのだという。いったい、その背景にはどんな事情が隠されているのだろうか。

 ここでは、教育・大学問題を長年取材し続けてきた中村正史氏の著書『東大生のジレンマ エリートと最高学府の変容』(光文社新書)の一部を抜粋。実際に休学を選択した学生の言葉とともに、休学生が増えている理由に迫っていく。(全2回の2回目/前編を読む)

東京大学・赤門 ©️AFLO

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10年あまりで2倍近くに急増した休学者

 学生団体や会社を立ち上げた東大生に会っていると、複数の学生から興味深いことを聞いた。

「最近は休学して自分のやりたいことをする人が増えているんですよ」

 受験エリートである東大生と休学のイメージとは、すぐには結びつかない。本当だろうか。

 気になって、公表されている教育情報からその端緒がつかめないかと思い、東大のホームページを調べてみた。すると「学生数の詳細について」のなかに、在籍者数に続いて、内数として外国人学生数と休学者数が、学部や大学院研究科ごとに載っていた。データは2009年まで遡って掲載されている。

 2022年までの休学者の数字を学部ごとに抜き出し、見ているうちに驚いた。学部生の休学者は年を追って増え、2022年の休学者(5月1日現在)は387人。2009年の209人に比べて、85%も増えていた。休学者は2016年に300人を超え、2019年には375人になった。新型コロナウイルスの感染が拡大した2020年以降は、行動が制限されたことで減っているのではないかと思ったが、それまでと同程度の増加傾向が続いていた(表5参照)。

 

 学部別に見ると、文学部や工学部、1~2年次の教養学部前期課程の休学者が多い。一方で、大学院生は2009年以降でほとんど変化がない。大学院に進学すると、将来の方向性がはっきりするからではないか、学部生に何らかの変化が起きているのは間違いなさそうだ、と思った。

 後でわかることだが、東大の休学者がこの10年余りで2倍近くに急増していることは、東大の教職員や学生たちもほとんど知らないことだった。

広報課に取材を申し込んでみたものの

 データを書き写した後、2008年以前のデータはないか、休学者が増えた理由をどうとらえているのか、広報課に取材を申し込んだ。だが、返事は期待外れだった。「2008年以前の休学者数は保存年限(10年)を過ぎているため、対外的に提示できる正確なデータはない」、休学者が増えている理由についても「大学としてその点を分析してはおらず、申し上げられる見解がない」ということだった。要は、休学者が急増していることやその背景について、把握、分析していないのだ。学生の動向やメディアへの発信に鋭敏な私立大学なら、気の利いたコメントを出すだろうに、と思った。