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 一般的に、大学生の休学はネガティブにとらえられることが多い。病気やメンタル面の不調、経済的な事情などによるケースが多く、退学につながりかねないからだろう。確かに、東大でもこうした理由による休学もあるだろうが、これだけの増加傾向の背景には、何か他の要因があるに違いない。

 かつての東大には、優秀な学生ほど早く結果を出して卒業する風潮があった。在学中に司法試験に受かったり、法学部を卒業してすぐに助手になったり、あるいは3年生で外交官試験に合格し、中退して外務省に入るケースもあった。

 卒業を延ばす休学者の急増は、「早く結果を出す」という、これまでの風潮とは逆行する動きである。こうなると、実際に休学した学生に聞いてみるほかない。

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1年休学して漁村へ、「人間が変わった」と言われる体験味わう/岩永淳志さんの場合

「僕は、都会の生活しか知りませんでした」

 取材で知り合った学内情報集約サイト「UT—BASE」の代表者に、休学者の知り合いがいないか尋ねてみた。すると紹介してくれたのが、大学院農学生命科学研究科修士課程1年の岩永淳志さん(23)だった(学年、年齢は2022年の取材時。以下同)。会ったのは、本郷キャンパスのラウンジ。岩永さんはリュックを背負い、スーツケースを引いて、待ち合わせ場所に現れた。聞くと、活動している和歌山県美浜町から帰ってきたところだと言う。

 岩永さんは、日比谷高校から文科二類に入学。経済学部3年だった2019年8月から1年2か月休学し、和歌山県の漁村にあるゲストハウスに住み込みで仕事を手伝いながら、地元NPOの町おこし活動に携わった。

「僕は大阪府で生まれ、幼稚園のときに東京に来たので、都会の生活しか知りませんでした。田舎の生活がいかに大変で、いかに楽しいか。その実感を得たいと思っていました」

写真はイメージ ©️AFLO

 1年時の文化人類学の授業で中国・南京市にフィールドワークに行ったことが、自分を見つめ直す大きなきっかけになった。南京大学の学生と一緒に市内のスラムを歩き、興味を持った人に頼み込んで生活を共にするという内容だった。岩永さんは小さな商店街で麺をつくっている男性の家で2日間過ごした。

「ぼろぼろの家で衛生状態は悪く、最初はかわいそうな家族だと思いました。でも、食事はおいしく、困ったときには近所の人と助け合う。自分の東京での暮らしより、毎日が充実している様子でした。自分が豊かな生活に慣れきっていて、上から目線の偏った見方をしていたことを痛感し、価値観が変わりました。そこに住んでいる人にしか見えないことがあり、そこで暮らしてみて物事を見ることがいかに大事かを知りました」

 2年時には、東大の様々な国際プログラムを活用して、タイやインドネシアに1週間~1か月間、短期留学した。現地の学生に日本の豊かな自然や、都市と地方の格差などについて話そうとしてもうまくいかず、自分が日本のことをいかに知らないか痛感した。