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 鈴木 苦労して口説いたから出てきたんですよ。で、そうやって本田君をアニメーターとして連れてきたら、宮﨑駿は「若い」んですよ。自分ではやったことのないシーンを「これ、できるか?」と彼にやらせようとする。

 新谷 それは試してるんですか?

 鈴木 いや、意地悪ですよ。自分でも描かないもので彼に苦労させて、それを見てニタニタ笑ってる。要はあれこれといちゃもんをつけて本気で追い出したいんです。

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 新谷 それに、本田さんは?

 鈴木 彼は受け止めたんです。戦ったんですよね。結果的に今回の作品では、従来の宮さんの作品にはなかったシーンがいっぱいできた。

 で、宮さんはこの本田君との戦いも自分のエネルギーにするわけです。80越えて色気満々で、本当にすごい男だな、と思いましたね。

 そういう人が他にもいたな、と思い出したのが手塚治虫さんなんです。もう時効だと思いますが、宮さんの『風の谷のナウシカ』が日本漫画家協会賞にノミネートされたとき、事前に事務局から「もうほぼ『ナウシカ』で決定なんですが、手塚先生が『素晴らしいことは認める。でも完結していませんね』と仰って……」と連絡があったんです。結局、無事受賞できたんですが、この「枯れなさ」はすごかったですね。

引退から復帰した宮崎監督 ©文藝春秋

 新谷 天才は本気で認めた相手は潰そうとするんですね。

 鈴木 潰しつつ、それを自分のエネルギーに変える。だから面白いものができるんですよ。

社長復帰の真相

 新谷 今日のもうひとつのテーマは「鈴木敏夫はどう生きるか」なんです。みなさん気になっているのは、今回またジブリの社長に復帰されたことだと思います。この流れは?

 鈴木 これは、16年社長・会長をやってくれた星野(康二)さんと『君たちは~』の制作を区切りに、6月の株主総会で退任という線で話していたんです。僕も一緒に引退って話もあった。そうしたら、何があったかは知らないんだけど、「3月いっぱいということにしてもらえませんか」と、星野さんが言ってきたんです。

 新谷 鈴木さんが引導を渡したわけじゃないんですか?

 鈴木 違う違う。仲良かったもん。僕は「エッ」ということになったんですが、じゃあどうしようと言ったら、みんなに「鈴木さんがやるしかないんじゃないですか」と言われて、社長に復帰したんです。

(本稿は2023年6月2日に「文藝春秋 電子版」で配信したオンライン番組をもとに記事化したものです。聞き手:新谷学・本誌編集長、ゲスト:太田啓之・朝日新聞記者)

鈴木敏夫氏の「鈴木敏夫はどう生きるか」全文は、「文藝春秋」2023年8月号と、「文藝春秋 電子版」に掲載されています。