ライターという仕事柄、ネット上に連絡先のメールアドレスを一応公開している。ごくまれに私の記事を読んだ読者の方が感想を送ってくださることがあるのだが、つい先日、そのアドレス宛にこんなメールが届いた。

〈今20歳の犬と二人で過ごしています〉

〈82歳女です。今20歳の犬と二人で過ごしています。先日『ペットロス いつか来る「その日」のために』を読みました。いつかの日のために心構えをしたいと思いました。ありがとうございました〉

『ペットロスーー』とは私が自身の飼い犬の死をきっかけにペットロスについて取材した本で、今年5月に刊行された。この方はそれを読み、わざわざ連絡先を探して感想を送ってくださったわけだが、このメールを読んだ途端、私はなぜだか泣きそうになった。

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20歳の愛犬「トッティ」

 一般社団法人ペットフード協会によると飼育下の犬の平均寿命は14.48歳(2020年10月時点)。犬を飼った経験のある人であれば、20歳まで生きることがいかにすごいことかはすぐにお分かりいただけるものと思う。さらに82歳の彼女はその犬と〈二人で過ごしています〉という。いったいどんな風に暮らしているのか。彼女は「その日」にどう備えようとしているのか。この「二人」には絶対に会わないといけないと思った。(全2回の1回目/後編に続く

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目は見えないし、耳も聞こえなくても……

「二人」が住む家は、偶然にも今、私が住んでいるのと同じ札幌市内にあった。6月のある日、落ち着いた佇まいのマンションの一室を訪ねると、メールの送り主である大場友子さん(82)が笑顔で出迎えてくれた。その足元にいるのが20歳の愛犬「トッティ」(♂・ミニチュアダックスフントとパグのMIX)だ。この日は私の妻と今、私が飼っている元保護犬の「レタラ」(♂・2歳・雑種)も一緒だったので、トッティはしばらくの間、闖入者たちに吠えていたが、やがてしぶしぶ受け入れてくれたのか、家の中を自由に歩き回り始めた。

パグとダックスフントのMIXの「トッティ」

「もう目も見えないし、耳もほとんど聞こえないんですけど、この家の中はご覧の通り、不自由なく歩きまわっています」と大場さん。多少よろめきはするが、トッティが自分の足でしっかりと歩いていることにまず驚かされる。私が一昨年亡くした先代犬「ミント」(♂・雑種)も19歳5カ月まで生きたが、最後の1年はほぼ寝たきり状態で食餌や排泄のときだけ歩行器のお世話になって立つのがやっとだったからだ。