その点、トッティの身体はまだ若々しく、腰回りも20歳と思えぬほどパンとしている。
「うちに来てから去年までの19年間は散歩は1日3回、吹雪の日も台風の日も毎日休まず行ってました。1回40分から50分かけて、雪が降ろうものなら、この子、横っとびに走ったんですよ。それはもう勇ましかったです。そのときの“貯筋”があるから今もこうして歩くことができるんだと思います」
犬と接したこともなかった
そう目を細めて語る大場さんだが、もともと犬好きだったわけではない。それどころかトッティを迎えるまで、犬と接したことさえなく、関心もなかったという。
そんな彼女が思いがけず犬を飼うことになったのは20年前の6月3日のこと。
「当時、近くに娘が住んでいたんですが、孫たちがしきりに『おばあちゃん、ウチに遊びにおいでおいで』と言うんですね。それで娘の家に行ってみたら、犬がいたんです」
早くに夫を亡くした大場さんは当時、息子さんとこのマンションで同居していたが、犬は息子さんがペットショップで買い求め、いったん姉の家に預けていたのだという。
「お店で売れ残っていたのを5万円で買ったというんです。聞けば息子は『小さいころからずっと犬を飼いたかった』って。でも私が反対するのわかってたから、いったん娘の家に預けてから説得しようということだったようです」
犬には既に名前がつけられていた。当時、サッカーのワールドカップ日韓大会が開催されたころで、中学生のお孫さんがイタリア代表の名手フランチェスコ・トッティの大ファンだったので、その名にちなんだ。
「え? 犬にも感情があるのか」
こうしてトッティは半ば強引な展開で大場家にやってきたものの、「お金は戻ってこなくていいから、お店にこの子を返してきなさい」という大場さんと息子さんとの間では何度も喧嘩になったという。そんなある日のこと――。
「トッティが家の中でおしっこしちゃって、私が『コラッ!』と強めに叱ったんですよ。そうしたらこの子がアイロン台の下に逃げ込んで、上目遣いにこっちを見るんですね。その何とも言えない表情を見て、『え? 犬にも感情があるのか』という当たり前のことを私は初めて知ったんです」
それは犬と無縁の人生を歩んできた大場さんに新鮮な驚きと感動をもたらした。以来、朝晩の散歩や食餌の準備などトッティのお世話はすべて大場さんの仕事になった。