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「毎日散歩していると、トッティを介して人間関係も広がっていくんですね。私はずーっと趣味で俳句をやっているんですが、それも散歩中に話すようになった方が“俳句やってみない”と声をかけてくれたのがきっかけなんです。それに私自身も散歩のおかげですっかり足腰が丈夫になって、周りにいる同年代の人たちはみんな膝や腰が痛くて大変そうですが、私はおかげさまですっかり健康になりました」

 その言葉通り、大場さんの背筋はピンと伸び、溌剌とした雰囲気を漂わせている。

「この子が来てから、いっぱい小さな幸せがありました。なんなんでしょうね、これは……。だからこの間、息子に『あんたは一つだけ親孝行してくれたね』って。『なによ』と言うから『トッティを連れてきてくれたことは何よりの親孝行だよ』と言いました。本当にいっぱい幸せがありました。いたずらもいっぱいしました」

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大場さんとくつろぐトッティ

 大場家では、息子さんの帰宅と入れ替わりに大場さんが出掛ける日が定期的にあり、そのときは息子さんの夕食は大場さんが作ってテーブルにおいておくのが常だった。

「そうして帰ってきたら、息子が『今日、どうしたの? オレの夕食、何もなかったけど……』と言うんですね」

 だが夕食は確かにテーブルに並べた。とすると“犯人”は――。

「そう。トッティが食べちゃってたんです(笑)。それもご丁寧に料理が載ってたお皿までどこかに隠して、“証拠を隠滅”してたんですよ。ほんとに利口なんです」

2時間以上は留守にできない

 あるとき「トッティの“犯行現場”を押さえよう」と思い立った大場さんと娘さんは、テーブルの上にわざと大好物の焼き芋を置いて外出し、その後に何が起こるかをスマホで動画撮影したことがあったという。帰宅後、テーブルを見ると案の定、既に焼き芋はなく、動画をチェックすると、そこには床から椅子、椅子からテーブルと器用に飛び移って焼き芋を目指すトッティの姿がしっかりと記録されていた。

 

「その姿がもう可笑しくてねぇ。足腰の弱った今はもうテーブルに飛び乗ることもできないので、何を置いておいても安心なんですけどね」と足元に寄ってきたトッティを見ながら大場さんは少し寂しそうに呟いた。

 大きな病気もケガもなく元気に走り回っていたトッティだが、19歳となった昨年、白内障を患い目が見えなくなり、以前のように頻繁に外に散歩に行くことはできなくなってしまった。耳もほとんど聞こえていない。

 たとえ自宅にいるときでも2時間以上は家を空けられない。